Yes - 90125 (1983)
Yes『90125』について
Yesの『90125』は、1983年に登場した通算11作目のスタジオ・アルバムで、バンドのキャリアの中でも特に商業的な成功を収めた作品として知られている。プログレッシブ・ロックの代表格として70年代から活動してきたYesが、80年代の空気を強く取り込みながら作り上げた一枚であり、Art Rock、Prog Rock、Pop Rockの要素がひとつのアルバムの中でまとまっている。タイトルは本作のオリジナル・カタログ番号に由来しており、アメリカの郵便番号ではない、という点もよく語られる話だ。
この日本盤はATCO Recordsからの1983年リリースで、アルバムが最初に世に出た年と同じタイミングの盤になる。『90125』は全米で53週チャートインし、最高5位を記録。イギリスでも16位まで上がっている。収録曲の中では「Owner Of A Lonely Heart」が全米1位を獲得し、Yesの名前を広く押し上げた。バンドにとっては、単なる新作というより、時代の変化の中で存在感を更新した作品という位置づけが強い。
80年代のYesを決定づけたアルバム
70年代のYesは、長尺構成や組曲的な展開、演奏技術の高さで語られることが多かった。それに対して『90125』では、曲の長さや構成がかなり整理され、リフやフック、コーラスの印象が前面に出ている。とはいえ、単純にポップ化しただけではなく、細かいリズムの切り替えや和声の運び、演奏の密度にはYesらしさが残る。80年代のAORやシンセを取り入れたロックと並べて聴くと、同時代性がはっきり見えてくる作品でもある。
この盤を聴くと、音の輪郭がかなり明確で、ベースやシンセ、ギターのレイヤーが比較的分かりやすく整理されている印象がある。複雑な構造を持ちながらも、耳に入ってくる情報が過剰になりすぎない作りで、当時のFMラジオとの相性も想像しやすい。70年代のYesを知っていると変化は大きいが、曲の組み立てや演奏の精度に目を向けると、バンドの核は保たれている。
「Owner Of A Lonely Heart」
本作を語るうえで最重要なのが「Owner Of A Lonely Heart」だろう。冒頭から印象的なギターの切り方と、打ち込み的な感触もあるリズム処理が耳を引く。Yesの代表曲としてはもちろん、80年代ロック全体の中でもかなり分かりやすいヒット曲で、バンドの既存イメージを更新した一曲として機能している。サビの強さだけで押し切るのではなく、展開の切り替えがはっきりしていて、短い尺の中にYesらしい構成感が入っているのが面白い。
この曲が1位を獲得したことは、Yesがプログレの文脈だけでなく、当時の大衆的なロックの場でも受け入れられたことを示している。長い楽曲が多かったバンドにとって、ここまでコンパクトで、しかもヒット性の高い曲を作れたこと自体が大きい。アルバム全体の入口としても強く、最初にこの曲が来ることで『90125』の方向性が一気に伝わる。
そのほかの注目曲
「Leave It」も重要な一曲だ。コーラスワークが前面に出た作りで、Yesのハーモニー感覚を別の形で見せている。演奏は緻密だが、聴感はかなり整っていて、アルバムの中ではポップ寄りのバランスに位置する。派手な長尺展開ではなく、声の重なりとフレーズの反復で印象を作るタイプで、80年代の制作感覚がよく出ている。
「Hold On」は、アルバムの中でバンド演奏の推進力が比較的強く出る曲として耳に残る。リズムの押し引きがはっきりしていて、シンセとギターが交互に前へ出る構成。Yesの持つ複雑さが、ここではかなりコンパクトな形に収まっている。大作志向の70年代作品とは違うが、演奏の密度を保ったまま曲としての推進力を持たせている点が見どころだ。
タイトル曲「90125」は、アルバム名をそのまま掲げた曲として、作品全体の象徴のような位置にある。フックの強い要素を持ちながら、細かな展開も含んでいて、単純なヒット曲の枠に収まらない。アルバム名と同じ番号をタイトルにしたことで、作品全体をひとつの再出発点として見せる効果もある。
日本盤としての見どころ
この日本盤は1983年当時のリリースで、ATCO RecordsのP-11356という番号が付いている。オリジナル盤と同時代の盤として、当時の空気をそのまま持っているのがポイントだ。『90125』はYesの作品群の中でも特に広い層に届いたアルバムなので、プログレの文脈から入る人にも、80年代ロックの流れから入る人にも接点が作りやすい。
Yesというバンドの変化を一枚で追うなら、この作品はかなり分かりやすい。70年代の複雑さを完全に捨てるのではなく、80年代の音作りとヒットの感覚へ接続したアルバム。その意味で『90125』は、バンドの代表作のひとつであり、同時に時代の転換点を示す記録でもある。
トラックリスト
- A1 Owner Of A Lonely Heart 4:26
- A2 Hold On 5:15
- A3 It Can Happen 5:26
- A4 Changes 6:17
- B1 Cinema 2:07
- B2 Leave It 4:12
- B3 Our Song 4:17
- B4 City Of Love 4:49
- B5 Hearts 7:34