Vinyl Record Reviews
ボニーM(Boney M.)は、1975年に西ドイツの敏腕音楽プロデューサーであるフランク・ファリアンによって結成された伝説的ユーロ・ディスコ・グループである。1970年代後半から1980年代前半にかけてヨーロッパを中心に世界的なディスコ・ブームを牽引し、全世界で1億枚以上のレコード・CDセールスを記録した。
ジャマイカやモントセラト、アルバ島などカリブ海出身のメンバーによって構成され、リード・ボーカルのリズ・ミッチェル、ボーカルのマーシャ・バレット、メイジー・ウィリアムス、そして圧倒的なダンスとカリスマ性でステージを支配したボビー・ファレルの4人によって黄金期が築かれた。
発端は1975年、プロデューサーのフランク・ファリアンが自身のヴォーカルをスタジオで多重録音(低音の野太い声からファルセットまで自ら歌い分けた)して発表したシングル「Baby, Do You Wanna Bump」のヒットであった。テレビ出演やライブ活動を行うための実体のあるパフォーマーが必要となり、オーディションを通じてカリブ出身の4人が選出された。
スタジオ録音においては、卓越した歌唱力を誇るリズ・ミッチェルとマーシャ・バレットが豊かな女声ヴォーカルを吹き込み、特徴的な重低音の男声ヴォーカルはファリアン自身がスタジオで担当した。そしてステージや映像においては、ボビー・ファレルが躍動感あふれるアクロバティックなダンスとリップシンクで観客を熱狂させるという、視覚と聴覚を完璧に分業・融合させたエンターテインメント・システムを確立した。
ボニーMの音楽は、強力な4つ打ちのディスコ・ビートを土台に、レゲエやカリプソといったカリブ音楽のリズム、黒人霊歌やゴスペルのハーモニー、そして親しみやすいヨーロッパのポップ・メロディを絶妙に織り交ぜたキャッチーな作風を特徴とする。
派手で煌びやかなストリングスとブラス・アレンジ、誰もが口ずさめるシンガロングなコーラスは、ディスコ・フロアのみならずラジオの電波や家庭のリビングまで浸透する圧倒的な大衆性を誇った。
1976年に発表した「Daddy Cool」やボビー・ヘブのカバー「Sunny」が欧州全土で爆発的なヒットを記録した。翌1977年には実在の女ギャングをテーマにした「Ma Baker」や北アイルランド紛争に触れた「Belfast」を連続ヒットさせ、名実ともにトップ・アクトの座を確立した。
1978年の傑作アルバム『Nightflight to Venus(ヴィーナスへの旅)』からは、「Rivers of Babylon(バビロンの河)」/「Brown Girl in the Ring」が全英シングル・チャート1位を獲得し、英国音楽史上歴代トップクラスの驚異的なセールスを打ち立てた。さらにロシア帝国末期の怪僧を描いた「Rasputin(怪僧ラスプーチン)」、クリスマス・アンセム「Mary's Boy Child」など、世界中でミリオンセラーを連発した。
同1978年には、冷戦下のソビエト連邦・モスクワへ西側のポップ・グループとして初めて公式に招聘され、赤の広場でのビデオ撮影や記念碑的コンサートを開催するなど、鉄のカーテンを超越した社会現象となった。
ABBAと並び1970年代後半のヨーロッパ・ポップスおよびディスコ・カルチャーの頂点として君臨したボニーMの楽曲群は、後世のヒップホップやダンス・ミュージックにおいて無数にサンプリングやカバーが重ねられている。ダック・ソースの世界的ヒット「Barbra Streisand」における引用をはじめ、その影響力は広範に及ぶ。
さらに近年では、「Rasputin」がSNSや動画プラットフォームを通じてバイラル・ヒットを記録するなど、世代や国境を超えて新たなリスナーを魅了し続けている。フランク・ファリアンの卓越したポップ・プロダクションとメンバーたちの躍動感は、半世紀を経た今も色褪せることなく輝いている。