Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O. Feat. Geoff Leigh - Reverse Of Rebirth Reprise (2020)
Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O. Feat. Geoff Leigh『Reverse Of Rebirth Reprise』について
Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O. は、1995年に結成された日本のサイケデリック・ロック・バンド。川端雅代ではなく川端 Makoto を中心に、メンバーが流動的に入れ替わりながら活動を続けてきた集団で、ノイズ、フリー・インプロヴィゼーション、スペース・ロック、アシッド・フォークまでを横断する存在として知られている。そんな彼らが2020年に発表したのが、本作『Reverse Of Rebirth Reprise』である。タイトルに「Reprise」とある通り、何かの再訪や反復を思わせるが、実際の内容もこのバンドらしい長尺のうねりと、演奏の瞬発力が前面に出た作品になっている。
本作はUS盤として Nod And Smile Records からリリースされ、黒盤800枚限定という仕様。録音は2018年7月25日にロンドンの Sam and Rachel’s で行われ、その後2019年9月に Acid Mothers Temple で追加作業が施されている。クレジットに Geoff Leigh の名がある点も重要で、彼は Henry Cow で知られる英国プログレ/アヴァンギャルド系のサックス/フルート奏者。日本のアシッド・ロック集団と英国の実験音楽の系譜が交差する構図で、単なるロック盤というより、複数の文脈が重なったセッション作品として見ると輪郭がつかみやすい。
作品の位置づけ
Acid Mothers Temple は、作品ごとに編成や役割が変化しやすいバンドだが、そのぶん一枚ごとの記録性が高い。本作も、グループの一過性の勢いを切り取ったというより、2018年のロンドン録音と2019年のバンド側での仕上げを経て、当時のラインナップの手触りを残したアルバムと考えると自然だろう。参加メンバーには Makoto Kawabata、Haco、Tatsuya Yoshida、Mitsuru Tabata、Terukina Noriko、Atsushi Tsuyama、Yoshimitsu Ichiraku、Hajime Koizumi などが並び、さらに Geoff Leigh の参加が作品の色合いを少しずらしている。
この時期の Acid Mothers Temple は、初期の粗い爆発力だけでなく、アンサンブルの密度や音色の配置まで含めて聴かせる場面が増えている。とはいえ、演奏が整理されすぎる方向には向かわず、リズム隊の反復、ギターのノイズ、管楽器の挿入が、一定の緊張を保ったまま進んでいく。サイケデリック・ロックの文脈では、東アジアのアンダーグラウンドと英国の実験ロックが接続する例として捉えられる一枚でもある。
聴きどころ1:反復の中で形を変えるギターとリズム
タイトル曲を含む本作では、まず反復の組み立てが印象に残る。単純なリフの繰り返しではなく、同じフレーズに見えて毎回音の置き方が少しずつ変わるため、長い時間が流れても停滞しにくい。Makoto Kawabata のギターは、旋律を前に出すよりも、歪みや倍音を使って空間を押し広げる役回りが目立つ。そこにベースとドラムが粘り強く追従し、曲の芯を保ちながらも、ところどころで崩れそうな揺れを作る。
このタイプの楽曲は、短い時間で結論が出るものではない。むしろ、音の重なりが増えたり引いたりする過程そのものが聴きどころになる。Acid Mothers Temple の作品群の中でも、即興の熱量と構成の見通しが同居する部類で、ライブ感のある録音がそのまま盤の性格に結びついている。
聴きどころ2:Geoff Leigh の管楽器がもたらす輪郭
Geoff Leigh の参加は、本作の中でかなり分かりやすい要素のひとつ。彼のサックスやフルートは、ギターの歪みの層に対して、音程の輪郭を別方向から差し込む役割を持っている。フリー・ジャズ寄りの噴き上がりというより、フレーズの隙間を縫って入り込むような吹き方が、曲全体の温度を少し変える。
Acid Mothers Temple はもともと管楽器や声、電子音を含めて音響の層を作るバンドだが、Geoff Leigh の存在によって、その層に英国的な実験ロックの感触が加わる。Henry Cow 周辺を思わせる硬質さがそのまま前面に出るわけではないが、サイケデリックな渦の中に、別の秩序が一瞬見えるような場面がある。そこが本作の面白さにつながっている。
聴きどころ3:Haco を含む多人数編成の厚み
参加メンバーの多さも見逃しにくい。Haco の声、Terukina Noriko のヴィブラフォン/グロッケンシュピール、Mitsuru Tabata のギター、Tatsuya Yoshida のドラムなど、個々の持ち味が重なることで、音の層が単なる轟音に寄らない。とくに打楽器の動きは、一直線に押し切るより、細かいズレで推進力を作る場面があり、そこに鍵盤やパーカッション的な音色が入ると、曲の輪郭が少しだけ明るく見えてくる。
このバンドを聴くとき、派手な展開だけを追うと見落としが出やすい。本作も、全体の流れの中で音色の変化を拾うほうが、作品の性格が見えやすいタイプに入る。いわゆる代表曲が単独で大きく流通する作品というより、アルバム全体の運動で成立している印象が強い。
同時代的な文脈
2020年という時期において、Acid Mothers Temple はすでに長い活動歴を持ちながら、なおも変化の途中にあるバンドだった。本作は、初期の過激なノイズ・サイケだけでなく、フリー・ロック、即興演奏、プログレッシブ・ロックの周縁までを含む現在地を示す記録として読める。比較対象を挙げるなら、英国の実験ロックや、フリー・ジャズと接続するサイケデリック・バンドの系譜が近いが、Acid Mothers Temple はそのどれか一つに収まらない。
『Reverse Of Rebirth Reprise』は、限定盤のアナログとしても、バンドの歩みを確認する一枚としても、2020年時点の編成と感触をそのまま伝える作品。Geoff Leigh の参加、ロンドン録音、そして後日のバンド側での仕上げという流れが、盤全体に独特の距離感を与えている。サイケデリック・ロックという枠の中で、演奏の密度と即興の揺れを同時に残した記録として、静かに存在感を持つアルバムである。
トラックリスト
- A Dark Star Blues
- B1 Hello Good Child
- B2 The Beautiful Blue Ecstasy