Ahmad Jamal - Happy Moods (1960)
Ahmad Jamal『Happy Moods』(1960)について
Ahmad Jamalの『Happy Moods』は、1960年にUSのArgoから出たスタジオ録音作。『At the Pershing: But Not for Me』の大きな成功の直後に置かれた作品で、Jamalのトリオ・サウンドがもっとも広く知られた時期の流れをそのまま受けている。ピアノのAhmad Jamal、ベースのIsrael Crosby、ドラムのVernel Fournierという編成で、録音は1960年1月20日と21日。Argoのステレオ盤としては、ジャケットにモノラル表記のカタログ番号が入り、レーベル面にステレオ番号が入る仕様になっている。
トリオの呼吸が前面に出た1枚
この作品でまず目立つのは、3人の間合いの取り方。Jamalは音数を詰め込まず、フレーズの終わりを少し残すように弾く場面が多い。そこにCrosbyの低音が一定の推進力を与え、Fournierのブラシや軽いスティックさばきが輪郭を整える。いわゆるピアノ・トリオの「伴奏」と「ソロ」をきっちり分ける感じではなく、3者が同じ空間を共有している録音。
『At the Pershing』で広く知られたJamalの持ち味、音の置き方やダイナミクスの操作は、この『Happy Moods』でもはっきりしている。大きな音で押し切る場面は少なく、短いモチーフを繰り返しながら、途中でリズムの重心をずらしていく展開が多い。聴き進めるうちに、演奏の密度よりも、各音の位置関係が作品の中心になっていることが見えてくる。
収録曲の性格
収録曲はスタンダード中心で、唯一のオリジナルが「Excerpt From The Blues」。この曲では、低音のペダルポイントを土台にブルース寄りのフレーズを重ねていく構成が取られている。Jamalの曲作りの中でも、旋律を大きく歌わせるというより、リズムと和声の動きを小さく積み上げるタイプの1曲。
また、Morton Gould作の「Pavanne」も聴きどころ。クラシック由来の素材を、そのまま“ジャズ化”するのではなく、Crosbyのオスティナート・ベースを軸にして、和声の流れと拍の感覚を組み替えていく。Jamalがスタンダードの枠組みだけでなく、こうした異なる素材にも同じトリオ感覚で向き合っているのが分かる場面。
同時代のジャズの中での位置
1950年代後半から60年代初頭のジャズ・ピアノは、ハード・バップの流れの中で、速いパッセージや強い推進力が前に出る演奏が多かった。その中でJamalは、音の余白や静かな緊張感を前面に出し、同じトリオ編成でもかなり違う設計を示した。Miles DavisがJamalを公然と称賛したことはよく知られていて、Jamalの間合いの取り方やダイナミクスへの意識は、後年のDavis側の作編曲にも影響を与えたとされる。
この『Happy Moods』は、そうしたJamalの美学がすでに十分に固まっている時期の記録。『At the Pershing』ほど一般的な知名度はないが、トリオの完成度という点では重要な位置にある。Argo期のJamalを追ううえで、流行の波に乗ったヒット作の次に何が続いていたかを確認できる作品でもある。
レコードとしての特徴
1960年のUS Argo盤には、ステレオ時代の切り替わりを反映した仕様が見られる。ジャケットはモノラル番号表記、センター・ラベルはステレオ番号表記という形で、当時のレーベル運用の空気が残っている。ArgoはChess系列のジャズ・レーベルとしてシカゴで始まり、1950年代後半から1960年にかけての録音を支えたレーベルのひとつ。
『Happy Moods』は、派手な変化で印象を残す作品ではなく、トリオの細かなやり取りと、Jamalの配置感覚で聴かせる1枚。スタンダード、ブルース、クラシカルな素材が、同じ演奏姿勢の中で整理されているところに、この時期のAhmad Jamalらしさがある。
トラックリスト
- A1 Little Old Lady 5:10
- A2 For All We Know 2:42
- A3 Pavanne 5:42
- A4 Excerpt From The Blues 2:58
- A5 You'd Be So Easy To Love 3:16
- B1 Time On My Hands 1:34
- B2 Raincheck 4:45
- B3 I'll Never Stop Loving You 3:01
- B4 Speak Low 4:53
- B5 Rhumba No. 2 2:35