Captain Beefheart And His Magic Band - Safe As Milk (1967)
Captain Beefheart And His Magic Band『Safe As Milk』(1967)レビュー
Captain Beefheart And His Magic Bandの『Safe As Milk』は、1967年に登場したデビュー・アルバムで、のちのキャプテン・ビーフハート像を決定づける出発点にあたる作品だ。ブルースを土台にしながら、歪んだリズム感、急な展開、変則的な歌い回しを前に出し、当時のロックの中でもかなり異質な存在感を放っている。いわゆるサイケデリック期の空気をまといながらも、単なる時代の流行には収まらない、荒さと構成感が同居した一枚という印象が強い。
本作はCaptain BeefheartことDon Van Vlietにとって最初期の重要作であり、後年のより実験性の強い作品へ向かう前段階としても位置づけやすい。ブルース、R&B、ガレージ・ロックの要素を吸収しつつ、曲の輪郭をわざと崩すような演奏が随所にある。聴き進めると、単に奇抜なだけではなく、リフや歌のフックはきちんと残っていて、その上で全体が少しずつずれていく感じがある。そこがこのアルバムの面白さだろう。
制作背景と音の手触り
録音は1967年春に始まり、Sunset Sound Studiosでのセッションを経て、最終段階はHollywoodのRCA Studiosでまとめられた。制作にはRy Cooderが参加しており、ギターやスライド・ギターだけでなく、編曲面でも大きく関わっている。さらにBob KrasnowとRichard Perryがプロデュースを担当し、サウンドの骨格を整えている。結果として、土台はブルース寄りなのに、音像は当時の一般的なブルース・ロックよりもずっと切れ味がある。
実際に聴くと、各楽器の分離は比較的はっきりしている一方で、演奏の噛み合い方はかなり独特だ。リズムが前へ進む場面でも、歌がわざと拍から外れるように感じられることがある。そこにRy Cooderのギターが入ると、曲全体が急に締まる瞬間がある。録音の段階で生まれた粗さと、編曲による整理が同居していて、デビュー作らしい初期衝動がそのまま残っている。
「Sure 'Nuff 'n Yes I Do」
冒頭を飾る「Sure 'Nuff 'n Yes I Do」は、このアルバムの方向性をかなり早い段階で示す代表曲だ。ブルースの語法を下敷きにしながら、Captain Beefheartのボーカルが普通のロック歌唱とは違う角度で入ってくる。言葉の置き方が前のめりで、リズムの上にきっちり乗るというより、少し押し込むように歌っていく感触がある。
ここで印象に残るのは、曲自体は比較的コンパクトでも、演奏のニュアンスがかなり細かいことだ。ギターのフレーズは単純なリフの繰り返しに見えて、ところどころで引っかかりを作る。ブルース・ロックの枠組みを使いながら、その枠にきれいには収めない。のちの作品ほど極端ではないが、すでに「普通のロック」とは少し違う場所に立っているのが分かる。
「Zig Zag Wanderer」
「Zig Zag Wanderer」も本作を語るうえで外しにくい一曲だ。タイトルどおり、まっすぐ進むというより、細かく折れ曲がるような動きがある。リズムとフレーズの組み立てが素直ではなく、短いフックの連続で引っ張っていくタイプの曲になっている。
この曲では、バンドのアンサンブルの癖がよく出ている。勢いだけで押し切るのではなく、ちょっとした間やズレが曲の輪郭になっている感じがある。ガレージ・ロック的な荒さと、サイケデリック期らしい感覚のずれが同時に見える曲で、アルバム全体の中でも特に「変なまとまり」がある。
「Abba Zaba」とアルバムのキャラクター
「Abba Zaba」は、作品全体の性格をよく表す曲として触れておきたい。コミカルな語感を持ちながら、演奏は軽いだけでは終わらない。リズムの置き方やボーカルの入り方に、どこか引っかかる感覚がある。タイトルの語感だけで終わらず、曲としても妙な粘りを持っている。
この曲が置かれることで、『Safe As Milk』は単なるブルース・ロックのアルバムではなくなる。親しみやすい断片と、扱いにくい感触が同居していて、そのバランスが面白い。のちにCaptain Beefheartがより前衛的な方向へ進んでいくことを思うと、この時点ですでにその芽はかなり見えている。
同時代との関係
1967年という年を考えると、The Doors、Jefferson Airplane、Jimi Hendrix Experienceなど、アメリカ西海岸や周辺のロックが大きく変化していた時期だ。その中で『Safe As Milk』は、サイケデリックな時代性を持ちながらも、単に幻想的だったり華やかだったりはしない。むしろ、ブルースの骨格を残したまま、演奏の癖と声の個性で別方向へずらしている。
比較されることの多いのは、同時代のブルース・ロックやガレージ系のバンドだが、この作品はそのどれとも少し違う。R&Bの土台はあるのに、演奏の着地点が安定しない。そこにCaptain Beefheartの声と歌詞が乗ることで、普通のロックの快感とは別の緊張感が生まれている。後年の実験性を知ってから聴くと、ここが出発点だったのかと感じやすい。
オリジナル盤と初期プレスの特徴
このアルバムの初期US盤は、Buddah Recordsからのリリースで、赤ラベル仕様が初期の特徴として知られている。のちに別仕様のラベルへ移行していくが、1967年のオリジナル期を示すものとしては赤ラベルが重要だ。ジャケット内部には写真モンタージュのライナーが入り、限定的にバンパー・ステッカーも付属した版があったとされる。
『Safe As Milk』は、後年の再発でもたびたび扱われたが、初期盤は見た目の仕様にも特徴が多い。音だけでなく、当時のリリース形態そのものが作品の印象を形作っている一枚だと言える。デビュー作らしい試行錯誤と、すでに完成している個性が同時に入っていて、Captain Beefheartという名前を最初に覚えるには十分すぎる存在感がある。
総じて『Safe As Milk』は、ブルースの型を借りながら、その型を少しずつ歪めていくアルバムだ。聴きやすさよりも、演奏の引っかかりや声の圧を記憶に残す作品であり、Captain Beefheartの入口としても、1967年のロックの変化を映す一枚としても重要だろう。
トラックリスト
- A1 Sure 'Nuff 'N Yes I Do 2:15
- A2 Zig Zag Wanderer 2:40
- A3 Call On Me 2:37
- A4 Dropout Boogie 2:32
- A5 I'm Glad 3:31
- A6 Electricity 3:07
- B1 Yellow Brick Road 2:28
- B2 Abba Zaba 2:44
- B3 Plastic Factory 3:08
- B4 Where There's Woman 2:09
- B5 Grown So Ugly 2:27
- B6 Autumn's Child 4:02