Himiko Kikuchi - Flying Beagle (1987)
Himiko Kikuchi 1987

Himiko Kikuchi - Flying Beagle (1987)

Jazz Fusion Jazz-Funk

Himiko Kikuchi『Flying Beagle』——80年代日本ジャズ・フュージョンの輪郭をはっきり写す1枚

菊池ひみこは、1953年生まれの日本のジャズ・ピアニスト、キーボード奏者、作曲家、編曲家。そんな彼女の代表作としてよく名前が挙がるのが、1987年にオリジナル・リリースされた『Flying Beagle』だ。ジャズを軸にしながら、ジャズ・ファンクやフュージョンの要素を整理よくまとめた作品で、聴き進めるほどに、演奏の密度と音の設計が見えてくるタイプのアルバムである。

今回の盤は、2025年リリースの日本盤再発。レーベルはSony Music系のGreat Tracksで、アナログ再発に力を入れているシリーズとして知られている。オリジナルの1987年盤と比べて、作品そのものの年代は1987年のままに、現代の再生環境で触れ直すためのリイシューという位置づけになる。録音はDigital Recording。80年代後半らしい、輪郭の明快さと各楽器の分離を意識した仕上がりが、このアルバムの性格をよく支えている。

作品全体の印象

『Flying Beagle』は、派手な技巧を前面に出し続けるアルバムというより、曲ごとの役割をきっちり分けながら、バンド全体の流れで聴かせる作りに近い。ピアノやキーボードが主役であることははっきりしているが、ベース、ドラム、ギター、ホーン、シンセの配置がきれいに整理されていて、各パートが過不足なく機能している。ジャズ・ファンクやフュージョンの作品にありがちな「音数の多さ」よりも、音の置き方の明確さが印象に残る。

同時代の日本のフュージョンを思うと、洗練されたスタジオ感、タイトなリズム、鍵盤の明瞭なフレーズという要素が自然に並ぶ。海外のクロスオーバーやフュージョンの流れとも接点はあるが、ここでは日本のレコーディング作品らしい、丁寧なアンサンブルの組み立てが前に出る。菊池ひみこの作品群の中でも、メロディとグルーヴの両方を見通しやすい1枚として受け止めやすい。

注目曲「Flying Beagle」

タイトル曲「Flying Beagle」は、このアルバムの顔としてまず触れておきたい。曲名の通り、軽やかに進むリズムの上で、キーボードのフレーズが次々と展開していく。主題はわかりやすく、耳に残る。そこにリズム隊がしっかりした推進力を与え、全体を前へ押していく構図だ。フュージョンの中でも、メロディの見通しがよく、インストゥルメンタルでありながら場面の変化が追いやすい。

この曲では、演奏の「速さ」そのものより、フレーズの受け渡しや、各楽器がどのタイミングで前に出るかという設計が見どころになる。派手に盛り上げるというより、一定のテンポ感の中で細かな動きを積み重ねるタイプで、アルバム全体の方向性を端的に示す役割を持っているように感じられる。

注目曲「L.A. Night」

「L.A. Night」は、都会的な空気を持つ曲として聴きどころがある。タイトルから想起される景色に寄り添うように、夜の移動感や、光の点滅のような鍵盤のフレーズが印象に残る。ここでも菊池ひみこのピアノやキーボードは、単独で目立つというより、編曲の中で輪郭を作る役割を担っている。

この手の曲では、ベースラインとドラムの組み方が全体の印象を大きく決めるが、『Flying Beagle』ではその土台が非常に安定している。結果として、音が流れていく感覚が途切れにくい。ジャズ・ファンクらしい粘りを持ちながら、空間の抜けもあるため、80年代のスタジオ作品としての整った感触がよく出ている。

菊池ひみこの立ち位置

菊池ひみこは、日本のジャズ/フュージョンの中で、鍵盤奏者としてだけでなく、作曲家・編曲家としても存在感を持つアーティストだ。『Flying Beagle』は、その仕事ぶりが比較的わかりやすくまとまった作品として見やすい。演奏の妙だけでなく、曲の流れ、音の配置、各パートの役割分担まで含めて、作品としての完成度を作っている。

ジャズ・ファンクやフュージョンの文脈では、同時代の洗練されたインスト作品と並べて語られることが多そうだが、このアルバムはその中でも、過度に装飾へ寄らず、明快なリズムと鍵盤中心の構成で聴かせる印象がある。再発盤であらためて触れると、80年代デジタル録音らしい輪郭のはっきりした音作りが、楽曲の構造を見せやすくしているのもわかる。

2025年盤としての聴きどころ

2025年のGreat Tracks盤は、オリジナルの1987年盤を今の環境で聴き直す入口として機能している。アナログ再発における音の押し出しや質感の整理に定評のあるレーベルだけに、もともとのデジタル録音の情報量をどう受け止めるかが興味深いところだ。オリジナルの作品性を変えるものではないが、曲の輪郭や各楽器の位置関係をあらためて確認しやすい盤として扱える。

『Flying Beagle』は、菊池ひみこの作曲・編曲感覚がよく見えるアルバムであり、80年代日本ジャズ・フュージョンのひとつの到達点としても読める作品だ。タイトル曲を軸にしながら、各曲が役割を持って並ぶ構成。派手さよりも、組み立ての確かさが残る1枚である。

トラックリスト

  1. A1 Look Your Back!
  2. A2 A Seagull & Clouds
  3. A3 Flying Beagle
  4. A4 Fluffy
  5. B1 Sand Storm
  6. B2 Baby Talk
  7. B3 The Second Summer
  8. B4 Ducky Ducky

動画

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