Stevie Wonder - Music Of My Mind (1972)
Stevie Wonder『Music Of My Mind』──70年代モータウン期の入口にある重要作
Stevie Wonderの『Music Of My Mind』は、1972年にTamlaから発表された作品で、いわゆる70年代前半の“自作色”が前面に出た時期を代表する1枚だ。ソウルを軸にしながら、ジャズ寄りのコード感やリズムの組み立てが入り込み、単なるヒット集とは違うアルバム全体の流れで聴かせる内容になっている。Stevie Wonderは1950年生まれのアメリカ人シンガー、作曲家、マルチインストゥルメンタリストで、この時期には自分の演奏と作曲を強く押し出しながら、表現の幅を大きく広げていった。
この作品は、モータウンの看板スターとして知られていた時代から、より作家性の強いアーティストへ移っていく流れの中に置くと見えやすい。華やかなシングル中心の印象だけでなく、曲の構成や音色の選び方に本人の意思がはっきり出ている。ファンクやソウルの土台を持ちながら、ジャズ・ファンクやソウル・ジャズの要素が自然に混ざるあたりが、このアルバムの面白さでもある。
アルバム全体の聴きどころ
『Music Of My Mind』は、曲ごとの魅力だけでなく、アルバムを通して聴いたときのまとまりが印象に残る。ベースの動き、鍵盤の重ね方、リズムの置き方が細かく、音数が多すぎない場面でも推進力が落ちない。歌メロは親しみやすいが、コード進行やフレーズの運びは一筋縄ではいかない。ソウル・ミュージックの枠に収まりきらない、少し先の時代を見ているような作り込みだ。
実際に聴くと、派手な一撃で押すというより、細部の積み重ねで引き込むタイプの作品だと感じやすい。歌の表情も、力強さだけでなく、語りかけるような柔らかさや内省の気配がある。そこが、同時代のファンク勢や、よりストレートなソウル作品との違いとして出ている。
「Superwoman (Where Were You When I Needed You)」
代表曲のひとつとしてまず挙げやすいのが「Superwoman (Where Were You When I Needed You)」だ。長めの尺を使いながら、前半と後半で空気が変わっていく構成が特徴的で、1曲の中に複数の場面がある。歌詞の内容はタイトル通りの感情を軸にしているが、ただの失恋曲ではなく、時間の経過や感情の揺れが音の流れにそのまま乗っていくような作りになっている。
この曲では、Stevie Wonderの歌唱がかなり重要だ。声を張り上げる場面だけでなく、抑えた部分の説得力が大きい。伴奏も、歌を支えるだけでなく、曲の展開そのものを形づくっている。ソウル・バラードとして聴ける一方で、ジャズ的な和声感や組曲的な発想も感じやすい。
「Happier Than the Morning Sun」
「Happier Than the Morning Sun」は、アルバムの中でも流れを軽やかにする曲として印象に残る。リズムの跳ね方が心地よく、メロディの運びも自然だ。ここでは、ファンクの硬さよりも、柔らかいグルーヴの持続が目立つ。朝の光を思わせるタイトル通り、アルバムの中で空気を少し明るくする役割を持っている。
この曲の良さは、派手さよりもリズムのまとまりとボーカルの抜け方にある。耳に残るフックがありつつ、演奏の細部がしっかり作られているので、繰り返し聴くほど輪郭が見えてくるタイプだ。ソウルとジャズ・ファンクの接点を、無理なく形にしたような仕上がり。
「Keep On Running」ほか、アルバムを支える曲たち
「Keep On Running」のような曲では、グルーヴの持続と歌の押し引きがよく分かる。テンポの勢いに頼るのではなく、細かなリズムのうねりで前へ進む感じがある。こうした曲がアルバムの中に入ることで、バラードだけではない立体感が出ている。
また、アルバム全体を通して、歌と演奏が対等に並んでいる感触が強い。70年代初頭のブラック・ミュージックの中でも、自作自演の比重が増していく流れを体現した作品として見やすい。Stevie Wonderがこの時期に積み上げていった表現の方向性は、後の大きな成功につながっていくが、その入口のひとつとしてこのアルバムを置くと輪郭がつかみやすい。
同時代の文脈で見ると
1972年という年を考えると、ソウルはすでに変化の途中にあった。よりファンク寄りのリズム感、ジャズ由来の和声、アルバム単位での完成度が重要になっていく時期で、その流れの中で『Music Of My Mind』はかなり自然な位置にある。Stevie Wonderは、その潮流に乗るだけでなく、自分の感覚で整理し直している印象がある。単純に“踊れる”だけでも、“聴かせる”だけでも終わらない。
同じ時代のソウルやファンクを思い浮かべると、より硬質なファンクの推進力を持つアーティストや、ゴスペル色の強いソウルとは少し違う場所にいるのが分かる。このアルバムは、感情表現の強さと、音楽的な組み立ての細かさが両立している点で、Stevie Wonderの表現者としての転機を示す1枚として見てよさそうだ。
まとめ
『Music Of My Mind』は、Stevie Wonderが単なるヒット・アーティストではなく、アルバム全体を設計できる作り手として前に出てきた作品だ。ソウルを基盤にしながら、ソウル・ジャズ、ジャズ・ファンクの感触を取り込み、曲ごとに異なる表情を見せる。1972年のモータウン作品として聴くと、その時代の変化と本人の進化が重なって見えてくる。派手な看板だけではなく、中身の密度で記憶に残るタイプのアルバム。
トラックリスト
- A1 Love Having You Around 7:21
- A2 Superwoman 8:04
- A3 I Love Every Little Thing About You 3:46
- A4 Sweet Little Girl 4:54
- B1 Happier Than The Morning Sun 5:18
- B2 Girl Blue 3:35
- B3 Seems So Long 4:27
- B4 Keep On Running 6:35
- B5 Evil 3:35