Incognito - Jazz Funk (1981)
Incognito 1981

Incognito - Jazz Funk (1981)

Jazz Funk / Soul Jazz-Funk

Incognito『Jazz Funk』(1981年)レビュー

Incognitoの『Jazz Funk』は、1981年にUKのEnsignから登場したデビュー・アルバムである。バンド名のとおり匿名性のある大所帯ユニットというより、当時のロンドンで育っていたジャズとファンクの感覚を前面に出した作品で、のちに長く続くIncognitoの出発点として位置づけられる一枚だ。中心にいるのはジャン=ポール・“ブルーイ”・モーニックとポール・“タブス”・ウィリアムスで、ここで鳴っているサウンドは、80年代初頭の英国ジャズ・ファンクの空気をかなりはっきり映している。

アルバムは1981年4月18日リリース。全英アルバムチャートで28位を記録したこともあり、インディーズ発の作品としては存在感が大きい。後年のIncognitoがアシッド・ジャズの文脈でも語られることを思うと、この時点で既に、リズムの強さとホーン・アレンジの密度、ギターのカッティングを軸にした演奏の輪郭が固まっているのがわかる。インストゥルメンタル中心で進む曲が多く、歌ものでも演奏の比重が大きいのが特徴である。

作品全体の印象

聴いてまず伝わるのは、演奏の整理された推進力だ。ベースが前に出て、ドラムとパーカッションが細かく刻み、そこにホーンが短いフレーズを重ねていく。派手に展開するタイプではないが、各パートの役割が明確で、曲の中で少しずつ熱が上がっていく構成が多い。ギターはリズムの芯を作り、キーボードは和声を埋めすぎず、空間を残したまま進行する。英国ジャズ・ファンクの中でも、演奏の輪郭が比較的くっきりした部類に入る印象がある。

この時代のUKジャズ・ファンクは、USのフュージョンやファンクと並べて語られることが多いが、Incognitoの場合はダンス・ミュージックへの接続感が早い段階から見える。のちのアシッド・ジャズで共有される「演奏音楽なのに、クラブで機能する」感覚の前景化とも読める。後年の大編成でソウル寄りの作風を強めたIncognitoとは違い、このアルバムではよりバンドの生演奏感が中心にある。

「Parisienne Girl」

代表曲としてまず挙げられるのが「Parisienne Girl」だ。デビュー・シングルでもあり、Incognitoの初期像を伝える重要な曲である。タイトルの印象に比べると、内容はかなり演奏主導で、軽快なリズムの上にホーンとギターがきっちり噛み合う。メロディの覚えやすさもあるが、それ以上に、曲が進むほどにリズム隊の粘りが際立つタイプの仕上がりだ。

この曲は、後のIncognitoを知っていると少し意外に感じるかもしれない。のちの作品で強まるヴォーカル・ソウルや洗練されたコーラスの印象よりも、ここではバンドとしての推進力が先に立つ。とはいえ、単なるジャムではなく、短いモチーフを積み上げていく構成が整っていて、デビュー作の中でも完成度の高さが目立つ。

「Summer's Ended」

「Summer's Ended」は、タイトルどおり季節の終わりを思わせる落ち着いた空気を持ちながら、演奏はあくまでタイトである。テンポの中で余白を作りつつ、ベースのラインが曲の重心を保っているのが印象的だ。華やかさよりも、グルーヴの持続で聴かせる曲で、アルバム全体の中では呼吸を整える役割も果たしている。

この手の曲では、演奏が緩むと印象が散りやすいが、『Jazz Funk』では各パートがきちんと噛み合っているため、地味になりすぎない。ホーンの入り方も過剰ではなく、必要なところだけを押さえている。アルバムの性格を示すという意味では、「踊れるが、雑に流れない」バランスを見せる一曲といえる。

「Shine On」

「Shine On」は、アルバムの中でも明るさが前に出る曲で、ギターのカッティングとホーンの掛け合いがわかりやすい。リズムの切れ味がはっきりしていて、演奏の整理された感じがよく出ている。派手なソロで押すのではなく、アンサンブル全体で押し出す形になっているのがこの時期のIncognitoらしい。

この曲を聴くと、のちのIncognitoがソウル、R&B、クラブ・ジャズへと広げていく前の段階で、すでに「リズムで引っ張るバンド」として成立していたことがわかる。初期作の中では、バンドの設計図をそのまま音にしたような位置づけで、アルバムの流れを締める役割も担っている。

Incognitoにとっての位置づけ

『Jazz Funk』は、Incognitoの長い活動の中では出発点にあたる作品である。のちにメンバーの入れ替わりを重ねながら、大きな編成とソウル色の強い表現へ発展していくが、その土台にある「演奏の精度」と「リズムの推進力」はこの時点ですでに明確だ。1981年の英国で、ジャズ・ファンクが単なる流行語ではなく、バンドの実演として成立していたことを示す記録でもある。

同時代の英国ジャズ・ファンクや、のちに続くアシッド・ジャズの流れを考えるうえでも外せない作品だろう。ジャズの演奏感、ファンクの反復、そしてクラブで機能するビート感。その三つが、過不足なくまとまっているデビュー作として、Incognitoの原点を知るには十分な内容である。

トラックリスト

  1. A1 Shine On
  2. A2 Wake Up The City
  3. A3 Why Don't You Believe
  4. A4 Chase The Clouds Away
  5. A5 Interference
  6. B1 Incognito
  7. B2 Sunburn
  8. B3 The Smile Of A Child
  9. B4 Walking On Wheels

動画

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