Vinyl Record Reviews
Dennis The Foxは、シアトルを拠点に活動したシンガー・ソングライター/キーボード奏者、デニス・カルディローラの名義だ。ジャンル表記ではRock、Folk、World、& Countryが並び、スタイルとしてはPsychedelic Rock、Acid Rockに分類されている。
カルディローラは1948年にモンタナ州マイルズシティで生まれ、イタリア系の父のもとで育った。幼少期からピアノを習い、シアトルのイタリア系移民が多い地区で音楽に親しんだ。1960年代半ばには自分のバンド、ラム・ランナーズを結成して地元で活動している。
その後、イタリア・フィレンツェへの留学を経て、シアトルのバンドHUGGでハモンド・オルガンを担当したのち、ソロへ移った。
Dennis The Fox名義で知られる代表作が『Mother Trucker』だ。1971年から1972年にかけて、シアトルのダウンタウンで録音された。録音場所は、もともと紳士服店だった建物を改装したスタジオで、エンジニアはジョン・A・ピーターソン。地元のミュージシャンたちも参加している。
この作品は、レコード契約を得るためのデモとして録られたもので、ハード・ロック、ファンク、ソウル寄りのバラード、カントリー・ロックなど、曲ごとにかなり幅がある。歌い方にはエルヴィス・プレスリーを思わせる要素があると紹介されている。
『Mother Trucker』は、1枚の作品の中に複数の方向性が入っているのが特徴だ。ロックを土台にしながら、ファンクの要素やカントリー・ロックの曲が並び、ソウル寄りのバラードも含まれている。キーボード奏者としての背景があるぶん、バンド編成の中でも鍵盤の存在感が出やすい作りになっている。
ファンク研究家のダンテ・カーファーニャは、収録曲「Pile Driver」のドラム・ブレイクを高く評価している。こうした点から、後年はレコード・コレクターやブレイク探しの文脈でも注目されるようになった。
当時のレーベル側からは「多才すぎて売り出しにくい」と判断され、契約には至らなかった。そのため、1972年に自主レーベルMusArtから少数がLPとしてプレスされた。長く私家盤の珍品として扱われていたが、2004年にWax Poetics誌で紹介されたことで再び知られるようになった。
その後、2007年にCD化され、2017年にはModern HarmonicからLPで再発された。現在はNow-Again Recordsがマスター権と出版権を管理している。
カルディローラは、その後も音楽活動を続けている。1979年頃からは、フィラデルフィア・ソウルの名プロデューサー、トム・ベルのもとで作曲に関わった。ディー・ディー・ブリッジウォーターやフィリス・ハイマンが録音した曲の共作者としても名前が見られる。
1980年代前半にはイタリアでロカビリー・バンドを率いて活動し、その後はクルーズ船でのエンターテイナーや競売人としても働いた。