Aretha Franklin - Spirit In The Dark (1970)
Aretha Franklin『Spirit In The Dark』(1970) レコード紹介
アレサ・フランクリンが1970年にAtlanticから発表した『Spirit In The Dark』は、通算17作目のスタジオ・アルバムにあたる作品だ。ソウルの王道を軸にしながら、ゴスペル由来の声の伸び、ファンク寄りの粘り、バンドの一体感が同じ盤の中で並走している。アレサの作品群の中でも、ヒット曲の存在感と、アルバム全体の流れが強く結びついた一枚として見ておきたい。
作品の位置づけ
1970年のアレサは、すでに「Respect」以降の成功で第一線の存在になっていた時期だが、このアルバムではその勢いを保ちながら、よりバンド志向の演奏が前に出ている。録音はフロリダ州マイアミのAtlantic South-Criteria Studiosで行われた。セッションにはディキシー・フライヤーズやマッスル・ショールズ・リズム・セクション系の顔ぶれが関わり、歌を支えるリズムの推進力がはっきりしている。アレサのボーカルが先頭に立つだけでなく、演奏全体がその声の動きに応答していく構図。
同時代のソウルで比べると、サム・クック以後の歌の重みを引き継ぎつつ、より南部的なグルーヴを押し出した流れの中にある。オーティス・レディングやウィルソン・ピケットの系譜と並べて聴くと、アレサのピアノと歌の結びつき、フレーズの置き方の細かさがよく見える。
収録曲と聴きどころ
先行シングルの「Don't Play That Song」は、このアルバムを語るうえで外せない。ベン・E・キングの楽曲をアレサ流に組み替えたカバーで、R&Bチャート1位、ポップ・チャート11位を記録した。原曲の輪郭を残しながら、リズムの押し込み方と歌の間合いで別の曲にしてしまうあたりが、この時期のアレサの強さだ。メロディの扱いが非常に明快で、サビに入る前のため方にもアレサらしい粘りがある。
タイトル曲「Spirit In The Dark」も重要だ。スタジオ版でも十分に重心の低いソウルだが、後年ライブで大きく育っていく。特に1971年3月6日のフィルモア・ウエスト公演では、客席にいたレイ・チャールズを即興で招き入れてこの曲をデュエットした場面がよく知られている。このエピソードは『Aretha Live At Fillmore West』にもつながり、アレサのライブ表現を象徴する場面として残っている。
「When The Battle Is Over」ではデュアン・オールマンがギターで参加している。南部ロックの文脈を背負ったフレーズが、ソウルのリズムの上で自然に噛み合っているのが面白い。ほかにも、アルバム全体を通してピアノ、ホーン、コーラスが過不足なく配置され、歌を中心に据えた70年代初頭のソウル・アルバムとしてまとまりがある。
盤としての特徴
このUSオリジナル盤はAtlanticのSD 8265。録音は1970年、ジャケット表記も当時のオリジナル仕様だ。リリースノートによれば、ラベルマトリクスに「LY」が入るものはShelley Productsプレス、ランアウトの逆向きの“S”スタンプも同工場を示す。さらに、ランアウトの「W」はAudiodiscのラッカーブランク使用を示す。こうした情報は、コレクター視点ではオリジナル盤の見分けに役立つ要素だ。
また、一部のコピーには「Includes the hit single Don't Play That Song SD 8265」というステッカーが付く。発売当時にシングルの成功を前面に出していたことがうかがえる。Atlanticの1970年前後の盤らしく、アーティストの勢いをそのままパッケージに反映した作り。
アルバム全体の印象
『Spirit In The Dark』は、派手なコンセプトで押す作品ではなく、歌とバンドの呼吸そのものを聴かせるアルバムだ。アレサの声は力で押し切るだけでなく、語尾の置き方や、拍の後ろに少し遅れて入る感じに細かな表情がある。そこにホーンとリズム隊が絡むことで、曲ごとの温度がしっかり立ち上がる。ソウルの中でも、教会音楽の感覚とファンクの推進力が同じテーブルに並んでいる一枚。
アレサ・フランクリンのディスコグラフィーの中では、代表曲の強さとアルバム全体の完成度が両方見える時期の記録として残る。ヒット曲「Don't Play That Song」、タイトル曲「Spirit In The Dark」、そして「When The Battle Is Over」のような場面を通して、1970年のアレサがどんな声とバンドでソウルを鳴らしていたかがよく分かる。
トラックリスト
- A1 Don't Play That Song 2:48
- A2 The Thrill Is Gone (From Yesterday's Kiss) 4:40
- A3 Pullin' 3:32
- A4 You And Me 3:30
- A5 Honest I Do 3:10
- A6 Spirit In The Dark 3:59
- B1 When The Battle Is Over 2:52
- B2 One Way Ticket 2:48
- B3 Try Matty's 2:28
- B4 That's All I Want From You 2:38
- B5 Oh No Not My Baby 3:10
- B6 Why I Sing The Blues 3:08