Simply Red - Picture Book (1985)
Simply Red『Picture Book』――マンチェスター発のソウル・ポップが形になった初期作
Simply Redのデビュー作『Picture Book』は、1985年に登場した1枚で、バンドの出発点をそのまま記録したアルバムだ。中心にいるのは、赤毛から「Red」と呼ばれていたミック・ハックネル。そこに元The Durutti Columnのトニー・ボウワーズ、クリス・ジョイス、ティム・ケレットらが加わり、マンチェスターのロック/ポストパンク圏から、ソウル、R&B、ポップへと軸足を移した作品としてまとまっている。Elektraからのリリースで、ヨーロッパ盤らしく録音・製造面も含めて80年代半ばの英国ポップの空気が強い。
バンドの輪郭がはっきり出るデビュー盤
Simply Redは、のちに大きくポップ寄りへ広がっていくが、この時点ではまだバンドの輪郭がかなり明確だ。ハックネルの歌声が前面に出る一方で、演奏はソウル・バンドらしい粘りと、英国のロックバンドらしい硬さを併せ持つ。『Picture Book』は、その両方がぶつからずに並んでいるアルバムで、デビュー盤らしい緊張感が残る。
制作はStewart Levineが担当している。レコーディングはSoundpush Studios(オランダ)とロンドンのRak Studiosに分かれて行われ、ミックスはAir Studios。クレジットだけ見ても、英国だけで完結しない作り方が見える。内袋には赤いプリントのポリ・ライナーが入り、歌詞入りインサートが付く個体もある。ジャケットは光沢のある仕様で、80年代中盤のメジャー作品らしい装丁。
代表曲2曲がアルバムの性格を決める
このアルバムを語るうえで外せないのが「Money's Too Tight (To Mention)」と「Holding Back the Years」だ。前者はThe Valentine Brothersのカバーで、1985年の先行シングルとして全英トップ20入り。サッチャー政権下の景気の悪さを背景にした内容が、ソウルの形式と結びついている。単なるカバーではなく、当時の英国で意味を持つ曲として機能している点が重要だ。
後者は本作最大の核。もともとはハックネルが10代の頃、家を出た母親への思いを含んで書き始めた曲で、以前のバンド、The Frantic Elevators時代から温められていた。『Picture Book』では再録音という形で収録され、翌1986年に米国ビルボードHot 100で1位、全英でも2位を記録する大ヒットになった。アルバムの中では最も広い射程を持つ曲で、Simply Redの名前を決定づけた1曲。
楽曲の並びにある、初期ならではの手触り
実際に聴くと、派手な展開で押すアルバムではない。ベースとドラムが前に出る場面でも、音の隙間がきちんと残っていて、ハックネルの声がそこに自然に置かれている。ソウルやR&Bの要素はあるが、70年代の米国ソウルをそのままなぞる感じではなく、英国のポップ・バンドとして整理されている印象が強い。曲ごとの設計がはっきりしていて、バラードとグルーヴ曲の切り替えも明快だ。
A4はレーベル表記でDavid Byrne、Jerry Harrisonのクレジットになっており、当時のアレンジ面でもニュー・ウェイヴ/アート・ロック以後の感覚が入り込んでいる。こうした点も、単純なソウル復興盤とは違うところだ。マンチェスター周辺から出てきたバンドでありながら、パンク以後の英国の感覚を保ったまま、黒人音楽の語法を取り込んでいる。
1985年の位置づけ
『Picture Book』は、Simply Redが大きな成功へ向かう最初の足場になった作品だ。のちの『Men and Women』や『Stars』のような洗練された方向へ進む前段階として、まだバンド名義の色が濃い。メンバー変遷を経て最終的にミック・ハックネルのプロジェクト色が強まっていくが、この時期はまだグループとしてのまとまりがはっきり残っている。
同時代の英国ソウル/ポップを考えると、Simply Redはよりロック寄りの出自を持ちながら、ソウルのフォーマットを使って広い層に届いたタイプに入る。後年のシングルヒットの土台は、このデビュー盤でかなり見えている。『Picture Book』は、その出発点を記録したアルバムとして、曲単位でも流れ全体でも、1985年の空気をよく残している。
盤の情報
- リリース国: Europe
- レーベル: Elektra (EKT 27)
- 盤の製造表記: Manufactured in Germany by Record Service GmbH, Alsdorf
- 収録曲の一部: 「Money's Too Tight (To Mention)」「Holding Back the Years」
- オリジナル盤の特徴: 光沢ジャケット、赤いポリ・ライナー内袋、歌詞入りインサートの存在
トラックリスト
- A1 Come To My Aid 4:04
- A2 Sad Old Red 4:32
- A3 Look At You Now 3:02
- A4 Heaven 4:33
- A5 Jericho 6:04
- B1 Money's Too Tight (To Mention) 4:14
- B2 Holding Back The Years 4:28
- B3 Red Box 3:55
- B4 No Direction 3:40
- B5 Picture Book 5:48