Deniece Williams - This Is Niecy (1976)
Deniece Williams『This Is Niecy』(1976)
デニース・ウィリアムズの『This Is Niecy』は、1976年にUS Columbiaからリリースされたソロ・デビュー作である。タイトルどおり、ここでは“Niecy”名義の親しみやすさと、シンガーとしての確かな実力が前面に出ている。彼女はそれ以前にスティーヴィー・ワンダーのWonderloveやバック・ヴォーカルの現場で経験を積んでおり、その流れの中から独立した作品として位置づけられる一枚だ。70年代ソウルの文脈では、グループ経験を持つ女性シンガーが、より個人的な表現へ移る流れの中に置けるアルバムでもある。
制作とサウンドの輪郭
本作はモーリス・ホワイトとチャールズ・ステップニーの共同プロデュースで録音されている。録音はロサンゼルスのWally Heider 3、Davlen Recorders、Kendum Recordersで行われ、参加ミュージシャンの顔ぶれからも当時のWest Coast寄りのソウル/ファンクの空気が見えてくる。George Bohanon、Oscar Brashear、Ernie WattsがHorizon Records経由で参加している点も、この時代らしい人脈の広がりを示す要素だ。
演奏面では、リズム隊の推進力がはっきりしていて、そこにウィリアムズの声がすっと乗る構成になっている。音の作りはファンク寄りの手触りがありつつ、ボーカルは過度に押し出さず、細かいニュアンスを残す方向に寄っている。実際に聴くと、強いビートの上で声を張り上げるタイプというより、フレーズの置き方で曲を進める歌い手だとわかる。音数の多いアレンジでも輪郭が崩れにくく、歌の抜け方が印象に残る作品だ。
代表曲「Free」の存在
このアルバムを語るうえで外せないのが「Free」である。後年まで代表曲として扱われることが多く、米国のソウル・チャートで2位、全英シングル・チャートで1位を記録した。アルバム全体の評価も、この曲の成功によって大きく押し上げられたとみてよさそうだ。歌詞の内容とウィリアムズの抑えた歌唱が合わさることで、単純なバラードでもダンス・ナンバーでもない独特の位置に収まっている。
ほかにも「That’s What Friends Are For」「Cause You Love Me Baby」などがシングルとして知られている。特に「That’s What Friends Are For」は、のちに別の形でも広く知られることになるが、この時点ではデニース・ウィリアムズのアルバム収録曲としての役割が大きい。こうした収録曲の並びを見ると、『This Is Niecy』は一発のヒットだけでなく、シンガーとしての幅を見せる設計になっている。
アーティストとしての位置づけ
デニース・ウィリアムズにとって本作は、ソロ歌手としての出発点であり、後のヒットへつながる起点でもある。1970年代後半から1980年代にかけて彼女はR&B/ソウルの主要な歌手のひとりとして存在感を強めていくが、その輪郭はすでにこのデビュー作で見えている。ゴスペル由来の声の伸びや、スタジオ録音でのコントロールの良さが、ソウルとディスコの接点で機能している点が重要だ。
同時代の感覚でいえば、Earth, Wind & Fire周辺の洗練されたソウル・プロダクションと通じる部分があり、いわゆる“踊れるソウル”の中でも、歌の存在感を保った作品として捉えられる。モーリス・ホワイトやチャールズ・ステップニーの関与も、その方向性を裏づけるものだろう。派手な装飾よりも、リズムと歌のバランスで聴かせるタイプのアルバムである。
USオリジナル盤について
今回のUS盤はColumbiaのPC 34242で、1976年当時のナンバリングに沿ったリリースである。ランアウトには「T1」が見られ、Columbia Records Pressing Plant, Terre Hauteプレスを示す。オリジナル期のColumbiaらしい仕様で、70年代中盤のCBS系ソウル作品としてのまとまりがある。盤としては、のちの再発盤よりも当時の制作意図に近い形で受け取れる1枚といえる。
まとめ
『This Is Niecy』は、デニース・ウィリアムズのソロ・キャリアの始まりを告げる作品であり、「Free」という代表曲を中心に、その後の評価を決定づけたアルバムである。ファンク、ソウル、ディスコの境目に立ちながら、歌そのものの強さを前に出している点が、この作品の核だろう。1976年のソウル・アルバムとして、制作陣の手堅さとウィリアムズの声の個性が、きれいに噛み合った一枚である。
トラックリスト
- A1 It's Important To Me 4:21
- A2 That's What Friends Are For 4:27
- A3 Slip Away 3:49
- A4 Cause You Love Me Baby 4:08
- B1 Free 5:57
- B2 Watching Over 3:53
- B3 If You Don't Believe 7:54