Lindstrom - Where You Go I Go Too (2008)
Lindstrøm『Where You Go I Go Too』(2008)について
ノルウェーのプロデューサー、Hans-Peter LindstrømがLindstrøm名義で発表した『Where You Go I Go Too』は、2008年の作品。オスロを拠点に活動する彼が、自身のレーベルFeedelityを軸に作り上げてきたディスコ/ハウス系の流れを、そのまま長尺のアルバムとして押し広げた一枚だ。Smalltown Supersoundからのリリースで、録音からアレンジ、演奏、ミックスまでをオスロのスタジオ群でまとめている点も、この作品の作り込みをよく示している。
制作のきっかけと作品の輪郭
このアルバムの出発点は、2007年初頭に受けたNikeのランニング・キャンペーン向けの楽曲依頼だった、というエピソードが残っている。Lindstrømは制作を進めるうちに、その素材を広告用の単発トラックとしてではなく、アルバムとして完成させる方向へ切り替えた。結果として生まれたのが、表題曲を軸に据えた大きな流れを持つ作品である。
本作を語るうえで外せないのが、タイトル曲「Where You Go I Go Too」。約29分に及ぶ長尺曲で、アナログ盤ではPart 1とPart 2に分けて収録されている。静かなアンビエント寄りの導入から始まり、少しずつビートが立ち上がり、細かな電子音やフレーズが重なっていく構成。短い展開を次々に切り替えるタイプではなく、ひとつのモチーフが時間をかけて姿を変えていく作りになっている。
長尺だからこそ見えるLindstrømの作法
Lindstrøm自身は、5分ではなく30分という枠で曲を書くことで、まったく違う考え方を迫られたと語っている。長い曲では、複数のテーマを持たせ、それぞれをじっくり発展させる余地がある。この発想がそのまま作品の中心にある。即効性のあるフックを前面に出すより、時間の経過そのものを曲の構造に組み込む作法だ。
実際に聴くと、序盤の静けさから中盤の推進力、後半の広がりまでが、ひとつの長い軌道としてつながっている。音数は多いのに、密度で押しつぶす感じではない。ディスコの反復を土台にしつつ、電子音のレイヤーやリズムの置き方で、空間の奥行きを作っていく。ここには、彼が「スペース・ディスコ」「コズミック・ディスコ」と呼ばれてきた文脈がはっきり出ている。
同時代の中での位置づけ
2000年代後半のディスコ/ハウス周辺では、イタリアやドイツの一部の作家たちと同様に、長尺でじわじわ展開するトラックが注目を集めていた。Lindstrømはその中でも、よりライブ感のある楽器の感触と、電子音の拡張感を同居させるタイプとして受け取られてきた。ノルウェーの自然環境や北欧の音楽文化を直接的に説明する必要はないが、彼の作品が冷たいだけでも、クラブ向けだけでもない独特の距離感を持つことは確かだ。
比較される名前としては、Tangerine Dreamのようなシンセ主導の大きな流れ、あるいはSteve Reichのような反復の組み立てが挙げられてきた。Pitchforkが本作を「Steve Reichの現代音楽とTangerine Dreamの臆面もない壮大さの間のミッシングリンク」と評したのも、そのあたりの感触を言い当てている。とはいえ、単なる引用ではなく、ディスコのグルーヴに落とし込んでいる点がLindstrømらしい。
アルバムとしての手触り
『Where You Go I Go Too』は、タイトル曲の存在感が圧倒的で、アルバム全体の印象もそこに引っ張られる。だが、単に一曲だけが突出しているわけではなく、作品全体が「長く進むこと」そのものを前提に組まれている。制作場所がFeedelity Studios / LHA Studio、最終ミックスがKrise Studio、マスタリングがEngine Earsと明記されていることからも、細部までオスロで完結させた作品としてのまとまりが見える。
2008年当時、Lindstrømはすでにディスコ再解釈の重要人物として知られていたが、このアルバムではその手法をさらに大きく伸ばしている。クラブ向けの機能性と、アルバム作品としての構成意識が、かなりはっきり同居した一枚。巨大な曲を成立させるための設計図を、そのまま完成形にしたような内容だ。
まとめ
『Where You Go I Go Too』は、Lindstrømの代表的な長尺志向と、スペーシーなディスコ感覚がもっとも分かりやすく表れた2008年作。Nikeの依頼から始まり、最終的には29分の表題曲を中心とするアルバムに着地したという経緯も、この作品の性格をよく示している。ディスコ、ハウス、電子音楽のあいだを行き来しながら、反復の中で少しずつ景色を変えていく構成が印象に残る。
トラックリスト
- A Where You Go I Go Too (Part 1) 13:10
- B Grand Ideas 9:37
- C Where You Go I Go Too (Part 2) 8:40
- D The Long Way Home 12:41