Neil Young - After The Gold Rush (1970)
Neil Young『After The Gold Rush』(1970) レコード解説
Neil Youngの3作目にあたる『After The Gold Rush』は、1970年9月に発表されたアルバムで、本人のソロ作としては初期の到達点に置かれる作品だ。前作『Everybody Knows This Is Nowhere』でバンド・サウンドの輪郭を強めた流れから一転し、本作ではフォーク、カントリー、ロックンロールの要素を、より簡潔な曲構成の中に収めている。Reprise RecordsからのUS盤オリジナルは、ゲートフォールド仕様で歌詞インサート付き。RS 6383の番号で流通した。
このアルバムの成立には、ディーン・ストックウェルが書いた脚本『After The Gold Rush』がきっかけになったというエピソードが知られている。創作が停滞していたYoungがその題名に触発され、短期間で楽曲を書き上げたと伝えられている。作品全体の流れを聴くと、その話に沿うように、曲ごとの輪郭がはっきりしていて、余白の使い方も明快だ。大きな編成で押し切る場面は少なく、音数を絞ったアレンジの中で、歌とメロディが前に出る作りになっている。
静かな曲調の中に残る緊張感
冒頭の「Tell Me Why」から、ギター、ピアノ、ハーモニカの配置がきれいに整理されている。続く「After the Gold Rush」では、ピアノを軸にした進行が印象に残る。歌詞は具体的な情景を追うというより、断片的なイメージをつないでいく形で進む。「Only Love Can Break Your Heart」は、後年までよく知られる代表曲のひとつで、淡い旋律と、少し距離を置いたような歌い方が残る。「Southern Man」はこのアルバムの中で最も議論を呼んだ曲で、南部の人種差別を正面から扱った内容として広く知られている。
「Southern Man」は、のちにLynyrd Skynyrdの「Sweet Home Alabama」との関係でも語られることが多い。ただし、そこにあるのは単純な対立構図だけではない。Young自身はその後もSkynyrdへの敬意を示しており、この曲が当時のアメリカ南部をめぐる言葉として強い印象を残したことのほうが重要だろう。70年代初頭のアメリカン・ロックにおいて、個人の感情と社会的な主題がここまで直接つながる例は多くない。
盤としての見どころ
このUS盤は1970年当時のRepriseらしい1色系の“steamboat”ラベルではなく、発売時期に応じた初期70年代の仕様で出ている。ゲートフォールド内側とラベルではカタログ表記が異なり、ジャケット側は6383、ラベルはRS 6383。歌詞インサートが付属する点も、この作品の聴き方に直結している。歌詞を追いながら聴くと、曲の短さと文の切れ方がよく見える。
マスターノートにある通り、初期US LPではside BのマトリクスがRe1またはRE1のものに「When You Dance I Can Really Love」の3:44ミックスが収録され、やや後のプレスではRe2またはRE2で約4:06のリミックスに差し替えられている。ただしラベル表記は3:44のまま残る。こうした違いは、同じ1970年盤でも実聴の印象にわずかな差を生む要素だ。なお、袖のピアノクレジットは初期ではNils Lofgrenのみで、のちにNeil Young、Nils Lofgren、Jack Nitzscheの表記に変わる。
同時代の中での位置
『After The Gold Rush』は、同時代のシンガーソングライター系の作品群の中でも、ロックバンド的な厚みより、曲そのものの形を見せる作りが際立つ。James TaylorやJoni Mitchellの作品と並べて語られることがあるのも、その構成の明瞭さゆえだろう。一方で、Neil Youngらしさは、きれいに整えたままで終わらないところにある。声の揺れ、コードの置き方、曲の終わり方まで含めて、整然とした印象の中に少しだけ荒さが残る。
このアルバムは、Neil Youngのキャリアの中でも長く参照される作品になった。後年の『Harvest』ほど外向きではなく、かといって内省だけに閉じてもいない。静かな曲調の中に、政治性、個人的な感情、アメリカの風景が同居している。1970年という時点でここまでまとまった形に着地している点に、この作品の強さがある。
収録曲の印象
- 「Tell Me Why」: 端的なコード進行と、歌の入り方が印象に残る冒頭曲。
- 「After the Gold Rush」: 作品の核にあるタイトル曲。ピアノ主体の構成。
- 「Only Love Can Break Your Heart」: 代表曲として定着した1曲。
- 「Southern Man」: アルバムの中でも最も強い主題を持つ曲。
- 「Cripple Creek Ferry」: 終曲として置かれ、短い尺でアルバムを締める。
『After The Gold Rush』は、Neil Youngが70年代のソングライターとしてどう見られるかを決めた重要作のひとつだ。派手な演奏で押すアルバムではないが、曲の並び、言葉の置き方、音の引き算がはっきりしていて、聴き終えた後に細部が残る。USオリジナル盤では、その時代のRepriseらしいパッケージングとともに、作品の輪郭をそのまま受け取れる。
トラックリスト
- A1 Tell Me Why 2:54
- A2 After The Goldrush 3:45
- A3 Only Love Can Break Your Heart 3:05
- A4 Southern Man 5:41
- A5 Till The Morning Comes 1:17
- B1 Oh Lonesome Me 3:47
- B2 Don't Let It Bring You Down 2:56
- B3 Birds 2:34
- B4 When You Dance I Can Really Love 3:44
- B5 I Believe In You 2:24
- B6 Cripple Creek Ferry 1:34