Peter Gabriel - Us (1992)
Peter Gabriel 1992

Peter Gabriel - Us (1992)

Electronic Rock Funk / Soul Downtempo Pop Rock Funk Art Rock

Peter Gabriel『Us』(1992年)レビュー

ピーター・ガブリエルの『Us』は、1992年にUK & Europe盤としてVirginから出た6作目のスタジオ・アルバムである。前作『So』から6年ぶりの新作で、制作期間は1989年10月から1992年6月までに及ぶ。長い間隔のあいだに、ガブリエルの私生活と制作環境の両方が大きく動いており、その変化がそのまま作品の輪郭になっている。

このアルバムは、離婚、ロザンナ・アークェットとの関係、最初の娘との距離感といった個人的な経験が色濃く反映された内容として知られている。制作中に受けたセラピーの経験も重要な要素で、ガブリエル自身が「あの経験とそれに続くセラピーは、このレコードにとって決定的だった」と振り返っている。感情の整理と対話の記録が、そのまま音の設計に落とし込まれた作品だ。

作品の位置づけ

『Us』は、ソロ・アーティストとしてのピーター・ガブリエルが、80年代の成功作『So』の次にどの方向へ進むかを示したアルバムである。派手なヒット性だけを前面に出すのではなく、内面の話を中心に据えつつ、リズム、電子音、バンド・サウンド、そしてワールド・ミュージック的な要素を組み合わせている。ガブリエルの作品群の中でも、個人的な主題と実験性がかなり近い距離で並んでいる一枚だ。

同時代の文脈で見ると、90年代初頭のポップ/ロックが持っていた洗練と、ワールド・ミュージックへの関心が重なる地点にある。U2やTalking Heads以降の流れ、あるいはブライアン・イーノ的な空間処理とも接点があるが、ガブリエルの場合はそこに明確な私小説性が入る。音の作り込みが細かく、曲ごとの温度差も大きい。

収録曲と聴きどころ

冒頭の「Come Talk To Me」は、アルバム全体の入口として非常に機能的な曲で、シネイド・オコナーのヴォーカルが強い印象を残す。対話を求める歌詞と、じわじわと広がるアレンジが重なり、作品のテーマを早い段階で提示する構成である。続く「Love To Be Loved」や「Blood Of Eden」でも、親密さと距離感が反復される。

「Blood Of Eden」もシネイド・オコナーが参加した曲で、声の配置が楽曲の空気を大きく左右している。ガブリエルの低めの歌唱と、相手の声の張りの対比がはっきりしていて、デュエットというより、視点の異なる二つの声が同じ場面を見ているような作りになっている。「Only Us」ではアユブ・オガダの声が冒頭と終盤を彩り、アルバムの中でも異なる時間感覚を持った曲として聴こえる。

演奏面では、L. シャンカールのヴァイオリン、クドゥシ・エルギュネルのネイなど、複数の地域的な響きが混ざる。いわゆる装飾的なワールド・ミュージックではなく、曲の構造そのものに関わる使い方で、ガブリエルが80年代から積み重ねてきた国際的な音楽観がここで具体化している。リズムは硬くなりすぎず、電子的な処理も前に出すぎない。そのバランスが『Us』の特徴になっている。

代表曲と反響

代表曲としてまず挙がるのは「Come Talk To Me」である。シングルとしても存在感があり、アルバムの入口としてだけでなく、90年代のピーター・ガブリエルを象徴する曲として扱われることが多い。ほかにも「Steam」のように、リズムとポップな押し出しを強めた楽曲があり、作品全体の重さを少しほどいている。

商業面では、全米Billboard 200で2位、全英アルバムチャートでも2位を記録し、ヨーロッパでは1位を獲得している。前作『So』ほどの一般的な浸透ではないにせよ、ピーター・ガブリエルという名前が依然として大きな規模で支持されていたことがわかる。批評面では評価が割れ、好意的な見方と厳しい見方が並んだ。制作の密度が高いぶん、聴き手によって受け取り方が変わりやすいアルバムでもある。

このUK & Europe盤について

今回のVirgin盤は1992年リリースで、UK製。レーベル表記はVirginの213 143で、ラベルにはA/B/C/D面のコードが入る仕様になっている。インナーには歌詞が印刷され、ランアウトはスタンプ仕様。コピーによってはブラックのハイプ・ステッカーが付くものもある。Virginの1992年盤らしく、EMI流通期の印象を持つ時期のプレスで、オリジナル初出年の空気をそのまま持つ一枚である。

『Us』は、ピーター・ガブリエルの作品の中でも、私生活の揺れと音楽的な緻密さが強く結びついたアルバムである。大きなヒットを抱えながらも、内容はかなり内向きで、そこにワールド・ミュージック的な広がりが差し込まれている。90年代初頭のポップ・ロックの中でも、個人的な感情をここまで具体的な音像に変えた作品は、そう多くない。

トラックリスト

  1. A1 Come Talk To Me 7:04
  2. A2 Love To Be Loved 5:16
  3. A3 Blood Of Eden 6:35
  4. B1 Steam 6:02
  5. B2 Only Us 6:30
  6. C1 Washing Of The Water 3:50
  7. C2 Digging In The Dirt 5:16
  8. C3 Fourteen Black Paintings 4:36
  9. D1 Kiss That Frog 5:27
  10. D2 Secret World 7:01

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
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