Pharoah Sanders - Pharoah (1977)
Pharoah Sanders『Pharoah』(1977)について
Pharoah Sandersの『Pharoah』は、1977年にUSのIndia Navigationから出たアルバムだ。タイトルをそのまま掲げた作品で、70年代後半のPharoah Sandersの動きを知るうえで重要な位置にある。Impulse!での活動を終えたあと、より小さなインディー・レーベルへ移った時期の録音で、スピリチュアル・ジャズの流れを70年代の感触のまま持ち込んだ一枚として聴かれてきた。
India Navigation期のPharoah Sanders
Pharoah Sandersは1940年生まれのアメリカのテナー・サックス奏者で、60年代後半からフリー・ジャズ、そしてスピリチュアル・ジャズの重要人物として知られている。John Coltraneとの関わりでもよく語られるが、70年代に入ると自身のバンド・サウンドをさらに整理し、旋律、反復、グルーヴ、祈りのような持続感を前面に出していく。この『Pharoah』は、その流れの中で生まれた作品だ。大手レーベルの看板を離れたあと、規模の小さいレーベルから発表されたこともあり、作品そのものが当時のジャズ産業の変化を映している。
レーベルはIndia Navigation、カタログ番号はIN 1027。プロデュースはIndia Navigation Company名義でクレジットされている。オリジナル盤のジャケットには濃い茶色と青の2種類があり、見た目でも少し表情が違う。こうした細かな仕様も、オリジナル盤がコレクターの間で長く注目されてきた理由のひとつになっている。
収録曲の中心にある「Harvest Time」
この盤でまず触れたいのは、収録曲の中心にある「Harvest Time」だ。20分を超える長尺で、Pharoah Sandersの代表曲として扱われることが多い。実際に耳を傾けると、派手な展開を追うというより、同じフレーズや和音が少しずつ重なりながら、音の層が増えていく作りになっている。ギターのTisziji Muñoz、オルガンのClifton “Jiggs” Chase、そして妻のBedria Sandersによるハーモニウムが組み合わさり、ドラムを抑えたまま、長い呼吸で進んでいく。
この曲は、1976年8月のセッションを経て、9月に再びスタジオへ入った流れから生まれたとされる。最初のセッションでは別メンバーが参加していたが、最終的に残ったのは9月の録音だった。Bedria Sandersにとってハーモニウムは初めて触る楽器だったというエピソードも残っている。そうした偶然性も含めて、きっちり整えたスタジオ作品というより、場の空気がそのまま録音に入ったような感触がある。
音の作りと70年代ジャズの文脈
『Pharoah』は、モード的な進行とスピリチュアル・ジャズの持続感が軸にある。フリー・ジャズの鋭さを前面に出すというより、反復のうえに旋律を置き、空間を広く使う方向だ。同時代の作品でいえば、Alice ColtraneやYusef Lateef、あるいはSun Ra周辺の宇宙的な発想と並べて語られることが多い。とはいえ、この盤はあくまでPharoah Sanders自身のテナーの声が中心にあり、音の密度よりも、ひとつのフレーズを長く保つ力が印象に残る。
聴いていると、サックスが前に出る場面でも、伴奏がその隙間を埋めすぎない。ベース、オルガン、ハーモニウムの重なりが、演奏を押し流すのではなく、一定の高さで支えている。そこにSandersの音色が乗ることで、熱量はあるのに急がない、という独特の時間感覚が生まれている。
当時の評価とその後
発売当時はプレス数も多くなく、広く話題になった作品ではなかったようだが、その後は「幻の名盤」として扱われるようになった。オリジナル盤が高値で取引されるようになった背景には、音楽そのものの評価に加えて、流通数の少なさやジャケット違いの存在もある。長くブートレグで出回っていたことからも、コレクター需要の強さがうかがえる。
2023年にはLuaka Bopから初の正式リマスター再発が行われた。オリジナル盤と比べると、現行の再発では音源に触れやすくなった一方で、当時の盤にしかないジャケットの雰囲気や、1977年という時代の空気はオリジナルならではの要素として残っている。作品の中身はもちろん、そうした物理的な差も含めて語られてきたアルバムだ。
まとめ
『Pharoah』は、Pharoah Sandersが大きなレーベルの枠を離れたあとに、より内省的で持続的な音楽へ踏み込んだ記録として聴ける。代表曲「Harvest Time」を軸に、モード、スピリチュアル・ジャズ、ドローン的な反復がひとつの流れにまとまっている。70年代ジャズの周縁に置かれながら、後年まで長く掘り返されてきた理由も、その持続の強さにある。
トラックリスト
- A Harvest Time 20:50
- B1 Love Will Find A Way 14:27
- B2 Memories Of Edith Johnson 5:44