Vinyl Record Reviews
Donnie & Joe Emersonは、ワシントン州フルートランドの農家で育った兄弟デュオだ。メンバーはドニー・エマーソンとジョー・エマーソン。ジャンルはロック、ファンク/ソウルにまたがり、サイケデリック・ロック、ソフト・ロック、ファンク、ガレージ・ロック、AORの要素を含む。
1977年、父親がAM/FMラジオ付きのトラクターを買ったことが、2人の音楽人生の転機になった。農場でかなり隔離された環境で育っていたため、その時まで当時のポピュラー音楽に触れる機会が少なかったという。ラジオから流れる音楽に刺激を受け、2人は曲作りと演奏を始めた。
父親のドン・エマーソンSr.は息子たちの音楽活動を後押しし、銀行から借り入れをして録音スタジオを建設した。ウェブ上の情報では、このスタジオは農場内に作られた「The Practice Place」と呼ばれ、乳牛小屋をライブ会場に改装したこともあったとされる。
高校の音楽教師が2人のメンターになり、1979年に自主制作アルバム『Dreamin' Wild』を発表した。自主レーベルEnterprise & Co.からのリリースで、ロック、ソウル、R&B、カントリー、ファンクが混ざった内容になっている。
制作面では、ジョーがドラム以外の演奏を担当し、作曲と録音の基本はドニーがひとりで担った。スタジオで約18か月を過ごすあいだに、2人は70曲ほどを書き、録音したという。
『Dreamin' Wild』は当時、商業的な成功にはつながらなかった。父親は借金を返せなくなり、農場は大幅に縮小したとされる。
転機は2008年。レコード・コレクターのジャック・フライシャーがスポケーンのアンティーク店でこのアルバムを見つけたことがきっかけになった。2012年にLight in the Atticから再発され、オリジナル盤の存在が改めて知られるようになった。
2012年には、ディーン・ブラント&インガ・コープランドが「Baby」をカヴァーし、続いてアリエル・ピンクズ・ホーンテッド・グラフィティも同曲を取り上げた。こうしたカヴァーが、現代のリスナーをオリジナルへ戻す流れを作った。
2014年には未発表音源集『Still Dreamin' Wild: The Lost Recordings 1979–81』が発売された。さらに2019年以降も「Thoughts in My Mind」などの新曲シングルを発表している。
Donnie & Joe Emersonの音楽は、フォーク寄りの素朴さだけでまとまっているわけではなく、ファンクやソウル、AOR、サイケデリック・ロックの要素が曲ごとに見える。農場の自作スタジオで作られた作品だが、単純な“ホームメイド感”だけで片づけられる内容ではない。
ウェブ上で紹介されている『Dreamin' Wild』の記録を見ると、長い時間をかけて曲を書き、録音を重ねたことがわかる。結果として、当時のローカルな制作環境と、70年代のアメリカン・ロック/ソウルの影響がそのまま反映された作品になっている。
2022年には、兄弟の物語を描いた映画『Dreamin' Wild』が制作された。監督はビル・ポーラッド。ケイシー・アフレックがドニー役、ウォルトン・ゴギンズがジョー役を演じ、ズーイー・デシャネルも出演している。