Donnie & Joe Emerson - Dreamin' Wild (1979)
Donnie & Joe Emerson 1979

Donnie & Joe Emerson - Dreamin' Wild (1979)

Rock Funk / Soul Psychedelic Rock Soft Rock Funk Garage Rock AOR

Donnie & Joe Emerson『Dreamin' Wild』(1979)レビュー

Donnie & Joe Emersonの『Dreamin' Wild』は、ワシントン州フルートランドの農家に育った兄弟が、外の音楽産業とほとんど接点のないまま1979年に自主制作したアルバムだ。レコードとしてはEnterprise & Co.から出ており、プレス枚数は2000枚、その半数が廃棄されたという記録も残る。結果として当時は広く流通せず、長く埋もれた作品になったが、のちに再評価が進み、現在ではこの兄弟の名を代表する一枚として語られている。

家族の支援から生まれた、完全に私的な録音

この作品の背景でまず特異なのは、兄弟の父ドン・エマーソン・シニアが音楽活動を強く支えた点にある。父親は中古のトラクターに付いていたAM-FMラジオをきっかけに、息子たちが当時のポピュラー音楽に触れる環境をつくり、さらに自宅スタジオ「The Practice Place」を建設した。かなりの費用を投じて録音設備を整え、約300人収容のコンサートホールまで作ったという話は、このアルバムの成り立ちそのものを物語っている。

兄弟はそこで1979年から1981年にかけて約70曲を書き、録音したとされる。『Dreamin' Wild』は、その初期の成果を外に出した作品で、業界の洗練よりも、家の中で積み上げた演奏と録音の手触りが前面に出る。音の作りはラフだが、単なる素朴さだけで片づけにくい密度がある。

ロック、ソウル、AORが混ざる独特の手作り感

収録曲を通して聴くと、ファズの効いたギターを軸にしたロック、AOR寄りのメロディ、ソウル/ファンクのリズム感、やわらかいバラードが、かなり自然に並んでいる。パンクやディスコが大きく流れていた時代に、そうした流行とは別の場所で作られた音なので、曲ごとの温度差や質感の違いもはっきりしている。録音の整いすぎない感じが、かえって曲の輪郭を見せている印象だ。

耳に残りやすいのは、やはり「Baby」だ。後年の再評価でこの曲が大きく取り上げられ、オリジナルへの入口になった。甘さのある歌メロと、少しざらついた演奏の組み合わせが特徴的で、ホームメイドな空気とポップソングとしてのわかりやすさが同居している。ほかの曲でも、静かな部分とバンド的な厚みのある部分が切り替わる場面があり、ローカルな録音でありながら、曲作りの意識はかなりはっきりしている。

埋もれた1979年盤と、その後の再発

『Dreamin' Wild』は1979年の時点では商業的な成功を得ていない。だが2008年、レコード・コレクターのジャック・フライシャーがスポケーンのアンティークショップでこのLPを見つけたことをきっかけに、ブログや紹介記事を通して注目が広がった。その後、Light in the Atticが再発を手がけ、現在ではオリジナル盤の存在とともに、再評価の流れの中で聴かれる作品になっている。

オリジナル盤は1979年の自主制作という性格が強く、流通量も少ない。再発盤はその後の発掘文脈の中で広まったもので、埋もれていた録音を現代のリスナーに届く形へ戻した役割が大きい。2012年にはAriel Pink’s Haunted Graffitiが「Baby」をカバーし、同時期にはDean BluntとInga Copelandも同曲を取り上げたことで、原曲への関心がさらに高まった。

同時代の文脈と、後年の広がり

同時代のアメリカン・ロックには、AORやソフトロック、ファンクの要素を持つ自主制作盤がいくつもあるが、『Dreamin' Wild』はその中でもかなり私的な背景を持つ一枚として際立つ。外部のプロデューサーやレーベルの調整をほとんど経ないまま、家族の支援と兄弟の制作意欲だけで完成している点が大きい。そうした経緯は、のちに発掘系レーベルやインディー・リスナーの関心と結びつきやすかった。

さらに2014年には未発表音源集『Still Dreamin' Wild: The Lost Recordings 1979-81』が登場し、兄弟の活動が単発の伝説ではなく、継続した制作の記録として見直される流れもできた。2022年には映画化も行われ、作品単体だけでなく、その背景にある家族史や録音環境まで含めて語られるようになっている。

まとめ

『Dreamin' Wild』は、派手なヒット作ではないが、1979年の地方アメリカで、兄弟が自宅スタジオに積み上げた音楽の記録として重要な位置を持つ。ロック、ソウル、ファンク、AORが混ざる構成、手作りの録音感、そして「Baby」を中心にした後年の再評価まで含めて、埋もれたLPが長い時間を経て輪郭を持った例として見ておきたい一枚だ。

トラックリスト

  1. A1 Good Time 4:20
  2. A2 Give Me The Chance 2:50
  3. A3 Baby 4:00
  4. A4 Feels Like The Sun 6:30
  5. B1 Love Is 3:00
  6. B2 Don't Go Lovin' Nobody Else 5:30
  7. B3 Dream Full Of Dreams 5:00
  8. B4 My Heart 7:04

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
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