Vinyl Record Reviews
Many Voices Speak(メニー・ヴォイシズ・スピーク)は、スウェーデン出身のシンガーソングライター/マルチ楽器奏者マティルダ・モールド(Matilda Mård)によるドリーム・ポップ/インディー・ポップ・プロジェクト。透き通るように儚く憂いを帯びた歌声と、豊かなリバーブを纏ったギター、ミニマルで映画的な音響空間を特徴とし、北欧の冷涼で澄み切った空気をそのまま封じ込めたようなサウンドスケープを紡ぎ出している。
ストックホルムの慌ただしい都市生活から離れ、スウェーデン中部の自然豊かな小都市ボーレンジ(Borlänge)や、さらに静寂に包まれたアヴェスタ近郊の小さな村ビィ(By)へと移住したことを機に、彼女の内省的な創作活動は本格化した。
2016年に発表したデビュー・シングル「Video Child」がインディー・リスナーの間で瞬く間に注目を集め、さらにアメリカのスタンダード名曲「Blue Moon」の幽玄なカヴァーが米ビルボードのEmerging Artistsチャートにランクインするなど大きな反響を呼んだ。同年にスウェーデンの有力インディー・レーベルStrangers Candyおよび米国のHit City U.S.A.からデビューEP『Away for All Time』をリリースし、その繊細な美意識を確立した。
2018年、プロデューサーのペッテル・ニーゴード(Petter Nygårdh)とともに制作した待望のファースト・フルアルバム『Tank Town』を発表。タイトルの「Tank Town(給水塔のある退屈な田舎町)」という言葉に、現実から遊離した内省的な精神状態や孤独感を重ね合わせた本作は、「Chances」や「Necessaries」といった楽曲を中心に、孤立と自己探求をテーマにした美しいアンビエント・ポップの世界を展開して高い評価を獲得した。
2022年にはセカンド・アルバム『Gestures』をリリース。無駄を極限まで削ぎ落としたオーガニックなバンド・アレンジと、耳元で語りかけるような親密なボーカルによって、ソングライティングの奥行きと陰影をさらに深めた。
マジー・スター(Mazzy Star)やビーチ・ハウス(Beach House)、ウィドウスピーク(Widowspeak)といったアーティストのファンを魅了してやまない、静寂と余白を美しく操る北欧ドリーム・ポップの旗手である。