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Melvin Van Peebles(メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ、1932年8月21日 - 2021年9月21日)は、アメリカ・シカゴ出身の映画監督、脚本家、俳優、劇作家、小説家、作曲家。「近代黒人映画のゴッドファーザー」と称され、アメリカのインディペンデント映画およびブラック・カルチャーに革命を起こした不世出の総合芸術家である。映画界のみならず、スポークン・ワードやファンク、ブロードウェイ・ミュージカルの領域でも時代を切り拓いた先駆者として知られる。
ヴァン・ピーブルズは、米空軍の航空士官を経て渡仏し、フランス語で小説を発表したのちに映画の世界へと進出した。ハリウッドに招聘されてコロンビア映画のコメディ『ウォーターメロン・マン』(1970年)を成功させたが、白人主導のスタジオ・システムによる表現の制限に強く反発し、完全な自主独立の道を歩むことを決意した。
その決断から生まれた歴史的マイルストーンが、1971年の自主制作映画『スウィート・スウィートバック(Sweet Sweetback's Baadasssss Song)』である。ビル・コスビーからの借金を含む私財を投じ、製作、監督、脚本、主演、音楽、編集のすべてを一人で担った。白人警官の理不尽な暴力に反撃して逃走劇を繰り広げる黒人青年を描いた本作は、わずか50万ドルの製作費に対して1500万ドル以上の興行収入を叩き出し、1970年代の「ブラックスプロイテーション」映画ブームの決定的な引き金となった。
本作は音楽面でも革命的であった。劇伴には、当時まだメジャー・デビュー直後で無名に近かったモーリス・ホワイト率いる結成初期のアース・ウインド&ファイアー(Earth, Wind & Fire)を大抜擢。荒削りで生々しいファンクとフリー・ジャズのセッションが全編を彩った。
さらに、映画の宣伝広告費がなかったヴァン・ピーブルズは、映画公開に先駆けてスタックス(Stax)からサウンドトラック・アルバムを先行リリース。ラジオを通じて音楽を大ヒットさせ、その熱気をそのまま映画館の観客動員へと繋げるという、画期的なクロス・プロモーション戦略を成功させた。
音楽家としてのヴァン・ピーブルズは、ヒップホップ/ラップの直接的なルーツとしても極めて重要である。1960年代末に発表した『Brer Soul』(1968年)などのソロ・アルバムでは、ファンクやブルースのビートに乗せてストリートのスラングや過激な詩を語りかける「スポークン・ワード」のスタイルを確立し、後のラスト・ポエッツやギル・スコット・ヘロン、さらには90年代ヒップホップへと続く道を切り拓いた。
さらに1971年にはブロードウェイへ進出し、都市の黒人たちのリアルな現実を詩と音楽で描いたミュージカル『Ain't Supposed to Die a Natural Death』でトニー賞複数部門にノミネートされた。翌1972年にはゴスペル・ミュージカル『Don't Play Us Cheap』を上演し、作品賞や脚本賞でトニー賞ノミネートを果たすなど、白人優位だった演劇界の常識を覆した。
息子のマリオ・ヴァン・ピーブルズも映画監督・俳優として活躍し、父の『スウィートバック』誕生の壮絶な舞台裏を描いた劇映画『バッドアス!』(2003年)を制作した。メルヴィン・ヴァン・ピーブルズが貫いた妥協なき自主制作の姿勢とDIY精神は、スパイク・リーをはじめとする後進の黒人フィルムメーカーや、ヒップホップ世代のアーティストたちにとっての永遠の原点であり続けている。