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Phil Cohran(フィル・コーラン、本名:Kelan Philip Cohran、1927年5月8日〜2017年6月28日)は、アメリカ・ミシシッピ州オックスフォード出身のジャズ・トランペット/コルネット奏者、作曲家、文化活動家だ。シカゴのブラック・アーツ・ムーヴメントおよびAACM(創造的音楽家のための協会)の歴史において決定的な役割を果たし、スピリチュアル・ジャズとアフロフューチャリズムの礎を築いた巨人である。
1959年から1961年にかけて、コーランはサン・ラ・アーケストラ(Sun Ra Arkestra)の主要メンバーとして活動した。この時期のサン・ラが掲げた宇宙哲学とアフロセントリズムに深く共鳴した彼は、アフリカの伝統楽器ムビラ(カリンバ/親指ピアノ)を独自に電化・改良した創作楽器「フランキフォン(Frankiphone)」別名「スペース・ハープ(Space Harp)」を発明した。
その神秘的でパーカッシブな音色は、サン・ラの初期名盤『Fate in a Pleasant Mood』や『Angels and Demons at Play』をはじめ、コーラン自身のリーダー作でも象徴的な役割を果たした。サン・ラがニューヨークへ活動拠点を移す際、コーランはシカゴに留まり、地元の黒人コミュニティに根ざした草の根の文化運動へと身を投じた。
1965年、コーランはピアニストのムハル・リチャード・エイブラムスらとともに伝説的な前衛音楽集団AACM(Association for the Advancement of Creative Musicians)を共同創設した。フリー・ジャズ的な前衛書法へ傾倒する他のメンバーに対し、コーランはアフリカの伝統的なポリリズム、精神性、そして地域コミュニティを鼓舞するグルーヴを信奉した。
彼は自らの集団「The Artistic Heritage Ensemble」を結成し、シカゴ・サウスサイドに自主文化拠点「Affro-Arts Theater」を開設。若きギタリストのピート・コージー(Pete Cosey、のちにマイルス・デイヴィス・バンドで活躍)らを擁し、音楽、詩、演劇、教育が一体となった総合芸術を展開した。
コーランが自主レーベルから発表した諸作は、スピリチュアル・ジャズおよびアフロ・ファンクの最高峰として世界中のコレクターから崇められている。『On the Beach』(1967年)や『The Malcolm X Memorial (A Tribute in Music)』(1968年)、そして壮大な『Armageddon』などのアルバムでは、アフリカの祝祭的なポリリズム、重厚なブラス・セクション、フランキフォンのスペーシーな響きが融合した濃密な音響空間が記録されている。
コーランの残した足跡は、演奏のみならず教育面でも計り知れない。シカゴのチェス・レコードでセッション・ドラマーをしていた若き日のモーリス・ホワイト(Maurice White)は、コーランからカリンバの演奏指導を受け、そのエッセンスを後に結成するEarth, Wind & Fireのトレードマークとして世界へ広めた。
さらに、コーランの実子たち8人によって結成されたHypnotic Brass Ensembleが現代のブラス・ミュージック・シーンで世界的な活躍を繰り広げている。アフリカの伝統的なルーツと未来的な宇宙観を結びつけたPhil Cohranのスピリットは、今なお色褪せることなく脈々と受け継がれている。