Cyndi Lauper - She's So Unusual (1983)
Cyndi Lauper『She’s So Unusual』(1983)
シンディ・ローパーの『She’s So Unusual』は、1983年にUSのPortraitから出たデビュー・アルバム。ニュー・ウェイヴ以後の空気をまといながら、ポップ・ロックとシンセ・ポップを前面に出した作品で、80年代前半のメジャー・ポップの中でもかなり存在感の強い一枚だ。ローパー自身の個性が最初からはっきり出ていて、歌い方、曲の選び方、アレンジのまとまりまで含めて、デビュー作らしい勢いと完成度が同居している。
再起のタイミングで作られたアルバム
この作品の背景には、ローパーのキャリアの立て直しがある。1978年に結成したBlue Angelは商業的に大きくは伸びず、その後はマネージャーとの訴訟や個人破産も経験している。そこから新マネージャーのDavid Wolffのもとで再出発し、1983年春にPortrait Recordsと契約。本作は、その流れの中で制作された一枚だった。
レコーディングは1983年5月から8月にかけて、ニューヨークのRecord Plantで行われている。プロデューサーはRick Chertoff。楽曲の選定と構成にかなり深く関わり、Princeの“When You Were Mine”を含む既存曲と、ローパーの持ち味をつなぐ役割を担っている。HootersのRob HymanとEric Bazilianも編曲や演奏で重要な位置にいて、Anton Fig、Neil Jason、Ellie Greenwich、Jules Shearらが脇を固める形だ。クレジットを追うだけでも、当時のニューヨーク・ポップの人脈がよく見える。
シングル4曲がすべてトップ5入り
このアルバムの記録はかなり明快だ。収録シングル4曲すべてがBillboard Hot 100でトップ5に入っている。“Girls Just Want to Have Fun”は最高2位、“Time After Time”はローパー自身にとって初のNo.1、“She Bop”は最高3位、“All Through the Night”は最高5位。デビュー・アルバムでここまでシングルが連続して強いのは、当時としてもかなり珍しい。
とくに“Girls Just Want to Have Fun”は、タイトル通りの分かりやすさがありながら、歌詞の受け取り方に少しひねりがある。“Time After Time”は、アルバムの中でもいちばん広い層に届くバラードで、メロディの運びが素直だ。“She Bop”は軽快なシンセ・ポップに聞こえるが、歌詞の細部には当時のポップ・ソングらしいコード感がある。“All Through the Night”は、派手さよりも流れのよさが残る曲で、アルバムの締めに近い位置で効いている。
聴きどころは声の切り替え
実際に聴くと、まず耳に残るのはローパーの声の振れ幅だ。にぎやかな曲では明るく跳ね、バラードでは声の線を細くして感情を寄せる。その切り替えが、アルバム全体を単なるヒット集にしていない。曲ごとの色が違っても、歌い手の輪郭はぶれない。
演奏面では、80年代前半らしいシンセの使い方に加えて、バンドの手触りも残っている。打ち込み一辺倒ではなく、ギター、ベース、ドラムの押し引きが見えるので、音像がのっぺりしない。ポップ・ロックとシンセ・ポップの中間にあるアルバムとして整理しやすい作りだ。
同時代の文脈と位置づけ
Portraitは1982年にニュー・ウェイヴ周辺のアーティストを積極的に拾い直していて、Cyndi LauperとSadeを1983年に得たことで再び勢いを持ったレーベルだった。本作はその流れの中でも特に大きな成功例になる。80年代前半の女性ポップ・アクトの中では、MadonnaやPat Benatar、Blondie周辺と並べて語られることが多いが、ローパーはその中でも歌い方と表現の振れ方がかなり独特だ。
影響面では、ガール・グループ・ポップの感触を80年代のメジャー・ポップに接続した作品として見られている。Rolling StoneのKurt Loderが、長く失われていたガール・グループ・ポップの黄金期を思わせる声と評したのも、その文脈に近い。実際、曲の明るさだけでなく、コーラスの重ね方やフレーズの置き方に、60年代ポップの記憶が残っている。
受賞と後年の評価
アルバムはBillboard 200で最高4位を記録し、トップ40に65週間とどまったロングセラーでもある。1985年のグラミー賞では最優秀新人賞を含む複数部門で注目され、後年も評価は上がっている。Rolling Stone誌の「500 Greatest Albums」では2003年版の494位から2020年版で184位へ上昇し、2019年には米議会図書館のNational Recording Registryに保存指定された。
なお、この盤はUS盤で、Columbia Records Pressing Plant, Pitmanプレス。ランアウトの“P”刻印がその目印になっている。歌詞・クレジット入りのインナー・スリーブ付きで、表記はスパインがBFR 38930、ラベルがFR 38930。後年の再発や別プレスとは細部が異なるが、1983年のオリジナル期の空気をそのまま伝える仕様になっている。
まとめ
『She’s So Unusual』は、シンディ・ローパーが再起の流れの中で手にしたデビュー作であり、同時に80年代ポップの代表的な成功例でもある。ヒット曲の強さだけで押し切るのではなく、声、曲順、演奏、当時のポップ感覚が一体になっているところが大きい。1983年のUS盤を手にすると、その時代のメジャー・ポップが持っていた勢いと、ローパーの個性がそのまま閉じ込められていることがわかる。
トラックリスト
- A1 Money Changes Everything 5:02
- A2 Girls Just Want To Have Fun 3:55
- A3 When You Were Mine 5:07
- A4 Time After Time 3:59
- B1 She Bop 3:43
- B2 All Through The Night 4:29
- B3 Witness 3:38
- B4 I'll Kiss You 4:05
- B5 He's So Unusual 0:45
- B6 Yeah Yeah 3:17