Huey Lewis And The News - Sports (1983)
Huey Lewis And The News『Sports』
1983年9月にリリースされた『Sports』は、Huey Lewis And The Newsが前作『Picture This』(1982年)の成功を経て放った通算3作目のスタジオ・アルバム。所属レーベルのChrysalisから発表され、カリフォルニア州バークレーのFantasy StudiosやサウサリートのThe Plant Studiosで録音、ニューヨークのThe Power Stationにてボブ・クリアマウンテンの手によりミックスされた。80年代のラジオ・エアプレイを制覇した、アメリカン・ポップ・ロック屈指の金字塔である。
制作背景とマスターテープ死守のドラマ
前作がスマッシュ・ヒットした直後、所属のクリサリス・レコーズは深刻な経営難と組織再編に直面していた。レーベル側はヒットを確実にするため外部の大物プロデューサーの起用を強く迫ったが、バンドはこれを拒否して自費による完全セルフ・プロデュースを決断。さらに、クリサリスがCBS(コロムビア)との安定した配給網を確立して適切なプロモーション体制が整うまで、バンドとマネージャーのボブ・ブラウンは完成したマスターテープの引き渡しを頑なに拒否し、自分たちの作品の権利とリリース時期を守り抜いた。
妥協を排して制作された楽曲群は、いずれも強烈なフックと個性を持つ。オープニングの「The Heart of Rock & Roll」は、オーバーハイム・シンセサイザーによる鼓動(心音)で始まるアンセム。各地のFMラジオ局向けにヒューイが地元都市名を読み替えた数十種類ものカスタム・バージョンが制作され、全米各都市で熱狂的にオンエアされた。「I Want a New Drug」はタイトなホーンとカッティング・ギターが躍動するファンキーな代表曲だが、1984年の大ヒット映画『ゴーストバスターズ』主題歌(レイ・パーカー・Jr.)がそのベースラインやリフを露骨に模倣(制作陣が仮編集時に本曲をテンポトラックとして使用していたため)したとして著作権侵害訴訟に発展し、1985年に秘密保持条項付きで和解した逸話でも知られる。そのほか、マイク・チャップマンとニッキー・チン作の「Heart and Soul」、ドゥーワップ調の美しいコーラスが際立つ名バラード「If This Is It」、シン・リジィのフィル・ライノットともセッションしていたア・カペラ仕立ての「Bad Is Bad」、そしてベトナム帰還兵のPTSDと孤立を描いたシリアスな「Walking on a Thin Line」など、多彩なナンバーが揃っている。
時代の文脈とアートワーク
1983〜1984年は、MTVの普及によって英国の第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンやシンセ・ポップ、そしてマイケル・ジャクソンやプリンスがチャートを席巻していた。その中で彼らは飾り気のない普段着の佇まいと、50〜60年代のR&B、ソウル、ドゥーワップ、パブロックに根差した骨太なアメリカン・ルーツ・ロックを武器に勝負。MTVを活用した親しみやすくユーモラスなミュージック・ビデオとともに、全米の圧倒的共感を獲得した。
ジャケット写真は、バンドが下積み時代から通い詰めていたカリフォルニア州ミルバレーのダイブ・バー「2 a.m. Club」の店内で撮影された。「アメリカ人がスポーツを見るのはスタジアムではなくバーのテレビだ」という彼ら一流のアイロニーとユーモアがタイトル『Sports』に込められている。
チャート実績と後世への影響
『Sports』は米Billboard 200で1984年6月に見事1位を獲得。マイケル・ジャクソンの『Thriller』やブルース・スプリングスティーンの『Born in the U.S.A.』と熾烈な首位争いを演じ、1984年の年間アルバム・チャートでも『Thriller』に次ぐ全米2位を記録した。Billboard 200のトップ10に通算約1年間にわたりランクインし続け、全米レコード協会(RIAA)より7×プラチナ(700万枚突破)、全世界で1,000万枚以上のセールスを達成した。シングルでも「Heart and Soul」(全米8位)、「I Want a New Drug」(全米6位)、「The Heart of Rock & Roll」(全米6位)、「If This Is It」(全米6位)とトップ10ヒットを4曲連発し、「Walking on a Thin Line」も全米18位を記録している。
また、ブレット・イーストン・エリスの小説および映画化された『アメリカン・サイコ』(2000年)において、主人公パトリック・ベイトマン(クリスチャン・ベール)が本作の商業的・芸術的完成度を熱弁しながら斧を振り下ろす象徴的なシーンによって、80年代ポップ・カルチャーのアイコンとして現代でも鮮烈に記憶されている。
トラックリスト
- A1 The Heart Of Rock & Roll 5:01
- A2 Heart And Soul 4:10
- A3 Bad Is Bad 3:46
- A4 I Want A New Drug 4:46
- B1 Walking On A Thin Line 5:08
- B2 Finally Found A Home 3:42
- B3 If This Is It 3:46
- B4 You Crack Me Up 3:39
- B5 Honky Tonk Blues 3:16