Paul Simon - Graceland (1986)
Paul Simon 1986

Paul Simon - Graceland (1986)

Folk, World, & Country Funk / Soul Folk Afrobeat

Paul Simon『Graceland』──1986年に届いた、ソロ期を決定づけた一枚

ポール・サイモンの『Graceland』は、1986年に発表されたソロ作の中でも、特に大きな転機を示すアルバムとして知られている。アメリカのシンガーソングライターとしてすでに長いキャリアを持っていたサイモンが、南アフリカの音楽に触れたことをきっかけに制作へ踏み出した作品で、ポップ、フォーク、R&B、アフリカ音楽の要素がひとつのレコードの中で交差している。US盤はWarner Bros. Recordsからのリリースで、ラベル表記はW1-25447。1986年当時のオリジナル盤として扱われる。

制作の出発点とアルバムの輪郭

この作品の出発点は、1984年にポール・サイモンが南アフリカの「タウンシップ・ジャイヴ」を収めたカセットテープを聴いたことにある。そこから南アフリカ音楽への関心が深まり、ヒルトン・ローゼンタールの助言も受けながら、ムバカンガをはじめとする現地の音楽性を取り入れた制作が進んだ。1985年初頭にはヨハネスブルグのOvation Recording Studiosで、レイ・フィリ、バキシ・クマロら現地ミュージシャンとリズム・トラックを録音し、その後ニューヨークのThe Hit Factoryでオーバーダブと仕上げが行われている。

実際に聴くと、打ち込みや過度な装飾に寄りかからず、ベースとギターの動きが先に立つ曲が多い。音数は多くないのに、リズムの細かなずれや反復で推進力を作っていく。ポール・サイモンのボーカルは前面に出すぎず、アンサンブルの中に自然に置かれている印象が強い。ソングライターとしての言葉数の多さより、フレーズの置き方や拍の取り方で曲を引っ張る場面が目立つ。

代表曲と収録曲の印象

代表曲としてまず挙がるのは「You Can Call Me Al」だろう。ユーモラスな歌詞と、跳ねるようなベースライン、そして中盤のホーンやコーラスの配置がよく知られている。シングルとしても大きく広がり、このアルバムの入口になった曲でもある。「Graceland」はタイトル曲らしく、旅と記憶の感触を持った楽曲で、アメリカーナ的な輪郭と南半球のリズム感が同居する。「The Boy in the Bubble」は冒頭から電子音とアコースティックな要素が交差し、当時のポップ作品としてはかなり独特な立ち上がり。「Diamonds on the Soles of Her Shoes」では、レディスミス・ブラック・マンバーゾのコーラスが大きく機能していて、アルバム全体の性格を象徴する場面になっている。

「Homeless」はレディスミス・ブラック・マンバーゾとの共演曲で、アビイ・ロード・スタジオで短時間のリハーサルののち、少ないテイク数で録音されたとされる。声の重なりとリズムの落ち着きが印象に残る曲で、アルバム内でも南アフリカ音楽との接点がはっきり見える一曲。「Under African Skies」も、サウンドだけでなく歌詞の視点に南アフリカへのまなざしが反映されている。

時代背景と論争

『Graceland』は音楽的成功だけでなく、制作過程でも大きな話題を呼んだ。制作当時、国連はアパルトヘイト下の南アフリカとの文化的交流を禁じる文化ボイコットを呼びかけていたが、サイモンは現地で録音を行ったことで批判を受けた。Artists United Against Apartheid などからも強い反発があり、作品をめぐっては「文化の越境」と「政治的な不一致」が同時に語られることになった。

ただし、レコードそのものを聴くと、論争の有無にかかわらず、現地ミュージシャンの演奏が作品の骨格を作っていることは明確だ。ギター、ベース、コーラスの呼吸が曲の中心にあり、サイモンのソングライティングはその上に乗る形で機能している。単に“異国風”を足したのではなく、演奏の流れそのものを取り込んだ作り。

ポール・サイモンのキャリアの中で

本作は、サイモンのソロキャリアにおいて復活作として位置づけられることが多い。1970年代の『Still Crazy After All These Years』や『One-Trick Pony』とは違い、ここではサウンドの設計そのものが刷新されている。アート・ガーファンクルとのデュオで知られた繊細なフォークの印象だけでは収まらず、80年代の国際的なポップ感覚と、アフリカ音楽の具体的な演奏感が結びついている点が大きい。

同時代の文脈で見ると、ワールド・ミュージックという言葉が欧米の主流市場で広く意識されていく流れとも重なる。レディスミス・ブラック・マンバーゾの存在を広く知らしめた作品としても記憶されていて、その後のクロスカルチャーなポップ作品に少なからず影響を与えた。80年代のシンガーソングライター作品の中でも、曲の作り、演奏の取り込み方、ヒット曲の広がり方がはっきり残るレコードだ。

USオリジナル盤について

このUS盤はWarner Bros. Recordsからの1986年リリースで、クレジットには「Warner Bros. Records Inc., a Warner Communications Company.」とある。さらにColumbia Record Club盤、Manufactured by Columbia House Under Licenseの記載もあり、当時の流通形態も反映している。ラベルは1983年以降の白地にWBシールドを配したデザイン時期に入るが、オリジナルの1986年作品としては、まさにその時代のWarner Bros.らしい仕様の一枚。

『Graceland』は、ポール・サイモンの代表作として語られることが多いが、その理由は単なるヒットの多さだけではない。楽曲ごとの輪郭が明確で、演奏の出自もはっきりしていて、アルバム全体がひとつの制作史として聴けるところにある。ポップ・アルバムでありながら、録音地、参加ミュージシャン、時代背景がそのまま音に残っている作品。

トラックリスト

  1. A1 The Boy In The Bubble 3:59
  2. A2 Graceland 4:48
  3. A3 I Know What I Know 3:13
  4. A4 Gumboots 2:42
  5. A5 Diamonds On The Soles Of Her Shoes 5:34
  6. B1 You Can Call Me Al 4:39
  7. B2 Under African Skies 3:34
  8. B3 Homeless 3:45
  9. B4 Crazy Love, Vol. II 4:17
  10. B5 That Was Your Mother 2:51
  11. B6 All Around The World Or The Myth Of Fingerprints 3:15

動画プレイリスト

Share
記事一覧に戻る

あわせて聴きたい "Afrobeat"

toast