Steely Dan - Can't Buy A Thrill (1972)
Steely Dan 1972

Steely Dan - Can't Buy A Thrill (1972)

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Steely Dan『Can't Buy A Thrill』(1972) レビュー

Steely Danのデビュー作『Can't Buy A Thrill』は、1972年にUSのABC Recordsから出たアルバムで、Walter BeckerとDonald Fagenを中心に始まったユニットの出発点にあたる作品だ。ニューヨーク出身の二人が、ロサンゼルスのスタジオ環境に身を置きながら制作したこの一枚には、後年のSteely Danに通じる緻密さと、デビュー作ならではのバンド感が同居している。ジャズの和声感覚を含んだロック、そこにポップ・ソングとしての分かりやすさを重ねた内容で、いわゆるAOR的な洗練へ向かう前段階の姿が見える。

デビュー作としての立ち位置

このアルバムは、Steely Danが単なるスタジオ・プロジェクトへ寄っていく以前の、まだバンドとしての輪郭が残る時期の記録でもある。Walter Becker、Donald Fagenに加えて、Denny Dias、Jeff Baxter、Jim Hodder、David Palmerがクレジットされており、特にDavid Palmerの存在が重要だ。Fagenは当時、自身の歌唱に強い自信を持っておらず、ライブで前に出ることにも抵抗があったため、「Dirty Work」や「Brooklyn (Owes the Charmer Under Me)」などでPalmerがリード・ヴォーカルを担当した。なお、Palmerが正式にバンドへ関わったのはこのアルバムのみで、次作以降はFagenが前面に立つ形へ移っていく。

収録曲とヒット曲

この作品を語るうえで外せないのが、「Do It Again」と「Reelin' In the Years」だ。前者は全米6位、後者は11位まで上昇し、アルバムの商業的成功を押し上げた代表曲である。「Do It Again」は、反復するリズムと独特の旋律が印象に残る曲で、Steely Danの初期を象徴する1曲として定着している。「Reelin' In the Years」はギターの存在感が強く、ロック・バンドとしての勢いが前に出る。アルバム全体を通して聴くと、こうしたヒット曲だけでなく、各曲のコード進行やアレンジに細かな工夫があり、デビュー盤ながら素材の作り込みがかなり早い段階で進んでいることが分かる。

なお、盤面やジャケットには曲名表記の揺れも見られ、たとえば「Reeling In the Years」や「Brooklyn」といった表記が使われている。こうした細部も、当時の初期プレスらしい味わいとして残っている。

録音とプロダクション

録音はロサンゼルスのThe Village Recorderで行われた。Steely Danという名前から想像される都会的で冷静な音の感触は、すでにこの時点でかなりはっきりしている。演奏の熱量をそのまま押し出すタイプではなく、各パートの配置や音の間合いを意識した作りで、ロックの骨格にジャズ・ロックの要素が自然に入り込む。70年代初頭の同系統のバンド、たとえばPocoやJames Gangのようなグルーヴ主体のロックとは違い、Steely Danは曲の内部構造そのものに気を配っている印象が強い。

プロデュース面でも、後の彼らがたどる洗練志向の入口として機能している。Gary Katzの関与のもと、ラジオ向けの明快さと、演奏の複雑さが同居する形で仕上がっており、その後のAORやジャズ寄りロックに影響を与えた流れの中でも、初期の重要作として扱われることが多い。

USオリジナル盤について

このUS盤はABC Recordsの黒ラベル仕様で、正方形のABCロゴが入ったタイプ。ジャケットはゲートフォールドで、カタログ番号はジャケットがABCX 758、ラベルがABCX-758となっている。ランアウト部の「T」刻印はColumbia Records Pressing Plant, Terre Hauteプレスを示す。レーベル表記も初期ABCらしいもので、当時のオリジナル盤らしい佇まいがある。再発盤ではこうしたラベル意匠や表記が変わることがあるため、オリジナルのUS盤は見た目の情報量が多い。

作品の評価とその後

『Can't Buy A Thrill』はBillboard 200で最高17位を記録し、1973年にはゴールド認定を受けた。のちにプラチナにも達しており、デビュー作としては十分に大きな成功を収めたことになる。批評面でも評価は高く、曲の完成度とシングルの強さが同時に備わった作品として語られてきた。Steely Danはこのあと、よりスタジオ精密主義へ進んでいくが、その入口にあるこのアルバムには、まだバンドの空気とポップ・ソングの勢いが残っている。

聴き進めると、ヒット曲だけでなく、アルバム全体の流れの中にSteely Danらしい構築感が早くも表れている。デビュー作でありながら、単なる出発点にとどまらず、このユニットが後に築く独自の音楽性を先取りした一枚として位置づけられる作品だ。

トラックリスト

  1. A1 Do It Again 5:56
  2. A2 Dirty Work 3:08
  3. A3 Kings 3:45
  4. A4 Midnite Cruiser 4:09
  5. A5 Only A Fool Would Say That 2:54
  6. B1 Reelin' In The Years 4:35
  7. B2 Fire In The Hole 3:26
  8. B3 Brooklyn (Owes The Charmer Under Me) 4:20
  9. B4 Change Of The Guard 3:28
  10. B5 Turn That Heartbeat Over Again 4:58

動画プレイリスト

公開: 2026年8月
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