U2 - Achtung Baby (1991)
U2『Achtung Baby』(1991)レビュー
U2の『Achtung Baby』は、1991年に登場した7作目のスタジオ・アルバムで、バンドの歩みの中でも大きな転換点に置かれる作品だ。ダブリン出身の4人組が、80年代に築いた大きなスケールのロックから一歩外れ、電子音やリズムの質感を取り込んだ方向へ舵を切った、その最初の到達点として広く知られている。今回のヨーロッパ盤はIsland Recordsからのリリースで、ジャケットやレーベル表記にも1991年当時の空気がそのまま残っている。
制作の背景とアルバムの位置づけ
制作は1990年10月、ベルリンのHansa Ton Studiosから始まった。東西ドイツ統一の直前から直後にかけての都市の空気の中で、U2は再出発の感覚を強く持っていたようだ。プロデュースにはDaniel LanoisとBrian Enoを迎え、音の輪郭を大きく組み替えていく作業が進められた。BonoとThe Edgeが電子的でダンサブルな方向を志向する一方、Adam ClaytonとLarry Mullen Jr.はより従来型のロックの手触りを求めたとされ、セッションは簡単にはまとまらなかった。
その停滞を切り開いた曲としてよく語られるのが「One」だ。別曲のブリッジを探る中でThe Edgeが偶然弾いたコード進行から骨格が立ち上がり、短時間で形になったという逸話が残る。この曲の完成で制作の流れが戻り、ダブリンでのセッションを経てアルバムは軌道に乗った。バンド自身がこの作品を「『The Joshua Tree』を斧で切り倒していく音」と表現した話も、この時期の意識を端的に示している。
音の印象と聴きどころ
実際に通して聴くと、まず感じるのは音の密度の変化だ。ギターは前面に出る場面でも、以前のような広がり一辺倒ではなく、歪みや残響が細かく配置されている。リズム隊は堅く、曲によっては機械的な感触すらある。そこにBonoの歌が乗ることで、ロックバンドの演奏でありながら、別のレイヤーが重なっているように聴こえる。
代表曲の「One」はもちろん、このアルバムの中心にある。「Mysterious Ways」はその中でも特にグルーヴが明確で、アルバムの方向転換をわかりやすく示す曲だ。「The Fly」は攻撃性のある音作りが目立ち、80年代のU2を知っているほど意外性が強い。「Until the End of the World」や「Who’s Gonna Ride Your Wild Horses」も含めて、メロディの強さは保ちながら、編曲の側で従来の枠をずらしている印象がある。
同時代との関係
1991年という時期は、ロックの景色が大きく変わり始めた頃でもある。アメリカではオルタナティヴ・ロックが勢いを増し、UKでもギター・ロックの更新が進んでいた。『Achtung Baby』は、その流れと完全に同じではないが、メジャー級のロック・バンドが自分たちの看板を保ったまま音像を組み替えた例として目立つ。U2がこの作品で示した手法は、後の大規模ロック・バンドの制作にも影響を残したはずだ。
続く1992年から93年のZoo TV Tourも、このアルバムと切り離せない。音楽だけでなく、映像、メディア、アイロニーを含めた提示が一体化していて、U2が80年代の真面目なイメージから距離を取る動きがはっきり見える。『Achtung Baby』は、その再構築の起点として扱われることが多い。
この盤について
今回のヨーロッパ盤は、1991年の発売当時の仕様が確認できる。マットなジャケットに対してU2の指輪部分だけがグロス仕上げになっている点、写真とクレジットを載せた印刷内袋、黒い歌詞シートの封入など、当時の物理媒体としての作り込みが残っている。録音はベルリンとダブリン、最終的なマスタリングやデジタル編集、クオリティ管理はA&M Mastering Studiosで行われた。背面表記には1991年の著作権表記とともに、ドイツ製造の案内が入る。
『Achtung Baby』は、U2が自分たちの過去をそのまま引き継がず、別の方法で大きなスケールを保とうとした記録だ。ヒット曲の強さと、音の組み替えの両方が同居している。90年代初頭のロックの変化を、メジャー・バンドの側から具体的に示した一枚として、今も参照され続けている。
トラックリスト
- A1 Zoo Station 4:36
- A2 Even Better Than The Real Thing 3:41
- A3 One 4:36
- A4 Until The End Of The World 4:39
- A5 Who's Gonna Ride Your Wild Horses 5:16
- A6 So Cruel 5:49
- B1 The Fly 4:29
- B2 Mysterious Ways 4:04
- B3 Tryin' To Throw Your Arms Around The World 3:53
- B4 Ultra Violet (Light My Way) 5:31
- B5 Acrobat 4:30
- B6 Love Is Blindness 4:23