Bruce Springsteen - Tunnel Of Love (1987)
Bruce Springsteen『Tunnel Of Love』(1987)レビュー
ブルース・スプリングスティーンの『Tunnel Of Love』は、1987年に発表された8作目のスタジオ・アルバム。前作『Born in the U.S.A.』の巨大な成功のあとに置かれた作品で、E Street Bandの一体感を前面に出したロックではなく、私的な感情の揺れを細かく追う作りになっている。タイトル曲の印象が強いが、アルバム全体としては恋愛、信頼、疑念、距離感といったテーマが、かなり落ち着いた温度で並んでいる。
US盤はColumbiaからのリリースで、カタログ番号はスパイン表記がOC 40999、ラベル表記がC 40999。Columbia Records Pressing Plant, Carrollton, GAでプレスされた個体で、ランアウトには“G”のエッチングが入る。DMM(Direct Metal Mastering)表記もあり、当時のデジタル録音・デジタル・ミキシングの流れも含めて、80年代後半の制作環境がはっきり見える一枚になっている。
作品の位置づけ
このアルバムは、スプリングスティーンのキャリアの中でもかなり内向きの作品として知られている。大きなロードムービーのような広がりを持つ『Born to Run』や『Born in the U.S.A.』と比べると、ここでは視線がずっと近い。家庭や関係性の機微を扱い、歌詞の中では相手への不信や、自分の中にある迷いが前に出る。派手な高揚感よりも、言葉の運びと細部の描写が中心になっている。
制作面では、1987年1月から4月にかけてニュージャージー州Rumsonの“Carousel House”にある本人のリビングルーム・スタジオで録音され、一部はロサンゼルスのA&M Studiosでも行われた。ミックスはA&M Studios、マスタリングはMasterdisk。クレジットにはSony Digitalの表記があり、当時としてはかなり時代を反映した制作過程がはっきり残っている。全体の音像は、バンドの熱量を前面に押し出すというより、音数を絞って言葉を聴かせる方向に寄っている。
聴きどころと代表曲
先行シングルの「Brilliant Disguise」は、この作品を象徴する一曲。メロディは親しみやすいのに、歌詞は相手の本心を探るような内容で、明るいコード進行と疑いの感情が同居している。「Tunnel of Love」はアルバムの核にある楽曲で、恋愛の高揚ではなく、その先にある不安定さまで含めて描く。「One Step Up」はアコースティックな手触りが強く、関係が少しずつ崩れていく過程を静かに追う。「Tougher Than the Rest」は後年までよく知られる曲で、ここでは恋愛の条件や覚悟を淡々と示すような書き方が印象に残る。
印象的なのは、演奏が前に出すぎないこと。ドラムやギターが鳴っていても、曲全体の焦点は常に歌詞と歌にある。E Street Bandの名前はクレジット上でも見えるが、群像劇的なバンド作品というより、スプリングスティーン個人の視点が強く出たソロ寄りのアルバムとして受け取られてきた。
同時代との関係
1980年代後半のロックは、スタジアム規模の華やかさと、より私的なソングライティングの両方が並走していた時期でもある。その中で『Tunnel Of Love』は、同じく大きな成功を収めた後に視点を内側へ向けた作品として読まれてきた。広い意味では、シンガーソングライター的な語り口を持つロック作品の流れにあり、派手なヒット性よりも、関係性の描写を詰める方向に重心がある。比較対象として名前が挙がるのは、アリーナ級のロックを鳴らしながら私生活の影を作品に持ち込むタイプのアーティストたちだが、この作品はその中でもかなり静かな部類に入る。
盤としての特徴
このUSオリジナル盤には、印刷されたインナー・スリーブが付属し、歌詞とクレジットが収録されている。シュリンクには「Brilliant Disguise」「One Step Up」「Two Faces」「Tunnel of Love」「Tougher Than The Rest」を挙げたヒプ・ステッカーが貼られていた個体もある。さらに、プロモーション用のゴールド・スタンプが入ったものも存在する。オリジナル盤らしい情報がまとまっていて、80年代のColumbia盤らしい実用品としての作りも見どころになる。
『Tunnel Of Love』は、スプリングスティーンの作品群の中で、恋愛と結婚生活の不安定さをかなり直接的に扱ったアルバムとして位置づけられる。大きなスケールのロックから一歩引き、言葉と感情の距離を測るような内容。ヒット曲を含みながらも、アルバム全体では華やかさよりも内省が前に出る作品になっている。
トラックリスト
- A1 Ain't Got You 2:06
- A2 Tougher Than The Rest 4:35
- A3 All That Heaven Will Allow 2:38
- A4 Spare Parts 3:39
- A5 Cautious Man 3:56
- A6 Walk Like A Man 3:37
- B1 Tunnel Of Love 5:11
- B2 Two Faces 3:00
- B3 Brilliant Disguise 4:15
- B4 One Step Up 4:21
- B5 When You're Alone 3:20
- B6 Valentine's Day 5:10