Vinyl Record Reviews
Nektar(ネクター)は、1969年に西ドイツで結成された英国人ミュージシャンによるプログレッシブ・ロック/スペース・ロック・バンドだ。ハンブルクのクラブ・シーンで出会ったメンバーが、ダルムシュタット近郊を拠点に活動を始めた。結成時の中心は、ロイ・オルブライトン(ギター、リード・ヴォーカル)、デレク・“モー”・ムーア(ベース)、アラン・“タフ”・フリーマン(キーボード)、ロン・ハウデン(ドラムス)で、そこにリキッド・ライト・ショーを担当するミック・ブロケットが正式メンバーとして加わっていた。
Nektarの特徴としてまず挙げられるのは、音楽とライヴ演出の強い結びつきだ。ステージ全体をサイケデリックな極彩色の光で包み込むリキッド・ライト・ショーは、当時のヨーロッパで大きな注目を集めた。演奏そのものに加えて、視覚演出もバンドの不可欠な要素として機能していた点が、このグループを他のプログレ・バンドと分かつ大きな個性となっている。
もうひとつ大きいのが、画家ヘルムート・ヴェンスケによるアルバム・カヴァー・アートだ。代表作のジャケットを手掛け、音楽とヴィジュアルの世界観が深く結びついたイメージを確立した。Nektarを語る際、アルバムの楽曲だけでなく、視覚的・アートワーク的な統一感もあわせて高く評価されている。
1971年のデビュー作『Journey to the Centre of the Eye』は、アルバム全体が一連の組曲のように繋がる構成で知られる。録音は名匠ディーター・ダークスが手掛けており、重厚なスペース・ロックの傑作として扱われている。
続く『A Tab in the Ocean』(1972年)を経て、1973年の『Remember the Future』が世界的な大ブレイクの転機となった。盲目の少年と異星人のテレパシーによる交信をテーマにした大作で、LP両面に1曲ずつ配した構成を持つ。この作品はアメリカでもカルト的人気を経て大ヒットし、米Billboard 200で19位を記録。Nektarの名が世界的に知られる決定的なアルバムとなった。
Nektarの音楽は、プログレッシブ・ロックの緻密な構成力とサイケデリック・ロックの浮遊感・ダイナミズムが同居している。長尺の展開、コンセプチュアルな組曲、オルガンやシンセサイザーとメロディックなギターの掛け合い、そしてステージでの視覚演出が一体となって語られることが多い。英国人メンバーによるバンドでありながら、活動拠点をドイツに置いたことで、英米のプログレとは一線を画す独特のスペイシーなサウンドスケープを確立した。
バンドは1970年代後半にロイ・オルブライトンの一時脱退などを経て一度解散したが、2000年代以降に再結成。オルブライトン(2016年没)やハウデン(2023年没)の逝去を経ながらも、デレク・ムーアやミック・ブロケットらオリジナル・メンバーを中心に活動を継続している。西ドイツを拠点に開花した英国産スペース・プログレの先駆者として、今なお根強い支持を集め続けている。