Vinyl Record Reviews
Tom Brock(トム・ブロック、1942年 - 2002年)は、アメリカ・テキサス州オースティン出身のソウル・シンガー/ソングライター。1970年代前半に西海岸ロサンゼルスで活動し、マエストロであるバリー・ホワイト(Barry White)の全面プロデュースによって生み出された唯一のソロ・アルバム『I Love You More and More』(1974年)によって、ソウル/レア・グルーヴの歴史にその名を永遠に刻んだ。
寡作ながらもその音楽的完成度は極めて高く、後にヒップホップ・シーンにおける名サンプリング・ソースとして発掘されたことで、世代やジャンルを越えて世界的な再評価を獲得した。
1970年から1975年にかけてロサンゼルスで活動していたブロックは、そのソングライティングと歌唱の才能をバリー・ホワイトに見出され、ホワイトが率いる20th Century Records傘下のプロダクションに迎えられた。
1974年にリリースされたアルバム『I Love You More and More』は、バリー・ホワイト自らがプロデュースを担当。編曲にはホワイトの右腕としてフィリー・ソウルやディスコの黄金期を支えた名匠ジーン・ペイジ(Gene Page)が名を連ね、演奏はラヴ・アンリミテッド・オーケストラ(Love Unlimited Orchestra)が務めた。当時の西海岸ソウル/ファンクにおける最高峰の布陣が集結した贅沢を極めたセッションとなっている。
本作の最大の魅力は、ジーン・ペイジによる流麗でドラマティックなストリングスと、タイトかつ重厚なファンク・ビート、そしてトム・ブロックの哀愁を帯びた深みのあるヴォーカルの調和にある。ブロックの歌声は決して派手に叫ぶタイプではなく、憂いを含んだ滑らかな語り口で聴き手の心に染み入る独特の温かみと包容力を持っている。
甘美なバラードから疾走感のあるモダン・ソウルまで、アルバム全体がひとつの壮大な映画のようにコンセプチュアルに構成されており、1970年代ブラック・ミュージックの金字塔としてレコード・ディガーたちから垂涎の的となった。
長年知る人ぞ知る幻の名盤とされていた本作は、2000年代以降のヒップホップ・プロデューサーたちによって劇的な再発見を遂げる。
特に知られるのが、プロデューサーのジャスト・ブレイズ(Just Blaze)がジェイ・Z(Jay-Z)の歴史的傑作アルバム『The Blueprint』(2001年)のヒット曲「Girls, Girls, Girls」において、収録曲「There's Nothing in This World That Can Stop Me from Loving You」のイントロとストリングスを大胆に早回しサンプリングしたことである。さらに2007年のジェイ・Zのアルバム『American Gangster』収録「Say Hello」(DJトゥーム制作)でも「The Love We Share Is the Greatest of Them All」が使用されるなど、サンプリング・クラシックの代表格として世界中のビートメイカーやリスナーに愛され続けている。