Camel - Moonmadness (1976)
Camel『Moonmadness』――英国プログレの精密さとメロディが同居した1976年作
Camelの『Moonmadness』は、1976年に発表された4作目のスタジオ・アルバムだ。前作『The Snow Goose』で大きく評価を伸ばしたあとに作られた作品で、バンドにとってはひとつの転機にあたる。英プログレッシブ・ロックの流れの中でも、Camelは演奏の緻密さと旋律のわかりやすさを両立させるグループとして知られていて、この作品でもその持ち味がはっきり出ている。
録音は1976年1月から2月にかけてロンドンのBasing Street Studiosで行われた。オリジナルの編成はAndrew Latimer、Peter Bardens、Doug Ferguson、Andy Wardの4人で、この布陣としてはひと区切りになる時期のアルバムでもある。作品全体は、各メンバーの性格をゆるやかに投影したような構成とされ、曲ごとの色分けが比較的わかりやすい。組曲的な流れを持ちながらも、前作のような完全なインストゥルメンタル一色ではなく、歌ものとしての輪郭も意識されている。
作品の位置づけ
Camelにとって『Moonmadness』は、単なる4枚目というより、バンドの代表的な語法がまとまったアルバムとして見られることが多い。『The Snow Goose』の成功後ということもあり、当時の制作環境ではより広い聴衆を意識した方向性が求められていたとされる。その結果、長尺の展開、繊細なフルートやキーボード、ギターの旋律が前面に出ながら、ロックとしての押しも残る仕上がりになっている。
英国ではアルバム・チャート最高15位、アメリカのBillboardでは118位まで上昇しており、Camelの中でも商業面で重要な位置を占める作品だ。のちの再評価も含めて、バンドのベストセラー盤として扱われることが多い。
音の印象と聴きどころ
実際に聴くと、まず感じるのは音の整理の良さだ。各楽器が過度にぶつからず、リズム隊の動きの上にギターとキーボードが層を作っていく。派手な技巧の見せ場だけで押し切るタイプではなく、フレーズの積み重ねで曲を進める場面が多い。静かな部分では間の取り方が丁寧で、音数を絞った場面でも空白が残りすぎない。
代表曲としてよく挙がるのは「Lunar Sea」だろう。アルバム後半を支える長尺曲で、Camelらしい展開の妙がよく出ている。リフの反復から少しずつ景色が変わっていく作りで、単純に盛り上がるというより、場面転換を見せるタイプの演奏だ。ほかにも、メロディの輪郭が明確な曲が並び、アルバム全体としては派手さよりも構成のまとまりが印象に残る。
同時代の文脈
1976年の英ロック界では、プログレッシブ・ロックがすでに成熟段階に入りつつあり、Camelもその中で独自の立ち位置を築いていた。YesやGenesisのように大規模な構築感を前面に出すグループと比べると、Camelはもっと端正で、旋律の流れが自然だ。King Crimsonのような鋭さや不規則さとも少し違い、ジャズ寄りの器用さを持ちながら、曲の温度は比較的落ち着いている。
この時期のCamelは、後のメンバー変遷を前にした安定期でもある。のちにMel Collinsがツアーに参加し、さらに編成は変わっていくが、『Moonmadness』自体はオリジナル・メンバーの感覚がよく残った作品として聴かれている。
US盤について
ここでのUS盤はJanus Recordsからのリリースで、ゲートフォールド仕様。JanusはGRT傘下で運営されていた米レーベルで、当時は複数のレーベル作品の流通も担っていた。US盤ならではの違いとしては、同時代のアメリカ流通盤らしい物理的な作りの雰囲気があり、ゲートフォールドでジャケットを開いたときの見え方も含めて、アルバム体験の一部になっている。
『Moonmadness』は、Camelの中でも聴き手の評価が定着しやすい作品だ。前作の余韻を引き継ぎながら、よりバンドらしいアンサンブルと曲のまとまりを見せていて、1970年代中盤の英国プログレの一断面をよく示している。派手な話題性よりも、演奏と構成の積み上げで残るタイプの1枚である。
トラックリスト
- A1 Aristillus 1:54
- A2 Song Within A Song 7:14
- A3 Chord Changes 6:43
- A4 Spirit Of The Water 2:03
- B1 Another Night 6:57
- B2 Air Born 5:00
- B3 Lunar Sea 9:09