山崎ハコ - ファーストライブ (1977)
山崎ハコ『ファーストライブ』について
山崎ハコの『ファーストライブ』は、1977年に日本でリリースされた初のライブ盤である。山崎ハコは、1970年代のフォーク・ブームの中で頭角を現したシンガーソングライターで、ギター弾き語りを軸にした歌と、言葉の輪郭がはっきりした作品で知られる。本作は、その作風がスタジオ録音とは別の形で立ち上がる一枚として位置づけられる作品で、活動初期の勢いと、当時のライヴ・パフォーマンスの空気をそのまま伝える内容になっている。
レーベルはF-Label、型番はFF-9010。F-LabelはCanyon系のサブレーベルで、新しい流れのフォークやロックを扱っていたレーベルとして知られる。1977年という時期は、フォーク・ブームの熱が少しずつ落ち着きつつも、個性的なシンガーソングライターがそれぞれの表現を深めていった頃で、山崎ハコもその文脈の中にいる。単なる“流行のフォーク歌手”ではなく、歌そのものの強度で聴かせるタイプのアーティストとして受け止められていたことが、このライブ盤からも見えてくる。
ライブ盤としての手触り
ライブ作品の面白さは、歌唱やギターの運びだけでなく、観客を前にしたときの間合いにあるが、この『ファーストライブ』もその点が大きい。スタジオ盤では整えられていたであろう語尾や息づかいが、ここではより直接的に響く。山崎ハコの歌は、旋律をなぞるだけではなく、言葉を置く位置に特徴があるため、ライブではその輪郭がよりはっきりする。静かな曲では声の芯が前に出て、強い情念を持つ曲ではその緊張感が持続する、そうした変化を追う楽しみがある。
この時期の日本のフォーク系ライブ盤には、客席の空気や拍手を含めて作品化するものが多いが、本作もその流れの中にある。山崎ハコの場合、アコースティック主体の編成が中心で、演奏の情報量は多くない。そのぶん、歌詞の一行やフレーズの置き方が前に出る。派手なアレンジで押すのではなく、歌そのものを聴かせる構成という印象が強い。
山崎ハコというアーティストの位置づけ
山崎ハコは1975年のデビュー以降、短い期間で多くの作品を発表していくが、その初期においては、すでに独自の世界がかなり明確だった。本作は、その初期の存在感をライブという形で確認できる点が重要だ。後年の活動を見ても、彼女は一つのイメージに収まりきらないが、1970年代の時点では、若い世代の女性シンガーソングライターの中でも、より個人的で切実な感情を前面に出す存在として見られていたように思える。
同時代の日本のフォークには、吉田拓郎、井上陽水、中島みゆきなど、言葉の強さを持つ表現者が並ぶが、山崎ハコはその中でも、声の質感と歌い方により強い個性がある。大きく広げるというより、狭い場所で感情を凝縮するタイプで、ライブではその密度がさらに増す。『ファーストライブ』は、その凝縮感を記録した初期重要作として見てよさそうだ。
注目曲について
本作の中心にあるのは、やはり山崎ハコの代表曲群である。ライブ盤では、スタジオ版で知っている曲でも、テンポや声の押し引きが変わることで印象が変化する。とくに彼女の初期代表曲は、メロディの美しさよりも、言葉の重みや語り口の強さで記憶に残るものが多く、ライブで聴くとその性格がより明確になる。曲の入り方、歌い終わりの余韻、ギターの鳴り方まで含めて、ひとつの演目としてまとまっている点がこの作品の見どころである。
また、山崎ハコの楽曲には、当時のフォークの枠に収まりながらも、どこか演劇的な緊張感を持つものがある。ライブではその傾向がさらに見えやすい。声を張り上げる場面だけでなく、抑えたパートでも感情の流れが途切れないため、曲の後半に向かってじわじわと温度が上がる。録音作品としての整然さより、現場の呼吸を重視する聴き方に向いた一枚だと言える。
1977年という時代の中で
1977年の日本では、フォークはすでに一枚岩のジャンルではなくなっていて、シンガーソングライターの個性が前に出る時代になっていた。山崎ハコの『ファーストライブ』は、その流れの中で、女性シンガーソングライターが自分の歌を自分の声で押し出していく感覚をよく示している。レーベルの性格もあって、単なる歌謡曲寄りの処理ではなく、当時の新しいニュアンスを持ったフォーク作品として受け止められていたはずだ。
この作品を聴くと、山崎ハコの初期キャリアが、単に“ヒット曲を持つ歌手”というより、ライブでの表現力を含めて評価されていたことがわかる。ライブ盤は、その場でしか出ない声や空気を残すが、『ファーストライブ』はまさにその役割を果たしている。1977年の山崎ハコを知るうえで、ひとつの基点になる記録盤である。
トラックリスト
- A1 ハーモニカ吹きの男 5:21
- A2 ききょうの花 4:45
- A3 クレイジーラブ 4:37
- A4 水割り 4:46
- A5 二日酔い 5:01
- B1 ひとり唄 4:13
- B2 気分を変えて 3:27
- B3 サヨナラの鏡 5:21
- B4 帰ってこい 5:13
- B5 向かい風 6:28