Fleet Foxes - Fleet Foxes (2008)
Fleet Foxes / Fleet Foxes(2008)
Fleet Foxesのセルフタイトル作『Fleet Foxes』は、2008年にSub Popから発表されたデビュー・アルバムである。シアトルを拠点に2005年に結成されたバンドが、初期の段階でここまで完成度の高い作品を提示したこと自体がまず目を引く。アメリカ西海岸の空気感をまとったインディー・フォークとして語られることが多いが、実際には声の重ね方、曲の流れ、録音の質感まで含めて、かなり緻密に組み上げられた作品だ。
作品の位置づけ
このアルバムは、Fleet Foxesにとって最初の本格的な長編作品であり、同年に出たEP『Sun Giant』と並んで初期像を決定づけた一枚である。リリース時点でバンドはまだ若い存在だったが、すでに作曲とアレンジの段階で強い個性を持っていた。Sub Popの紹介でも、クレジットカードや低賃金の仕事、チップ、家族や友人の助けを使いながらデモを作り、その後に作品へまとめ上げた経緯が語られている。制作の背景からして、かなりDIY色の強い出発点だったことがわかる。
録音は2007年の夏から秋にかけて、メンバーの自宅や友人宅、両親の家、さらにSeattleのLondon Bridge StudioとAvast Studioで行われた。アルバム本編に加えて『Sun Giant』EPも収録されたこの盤では、両者がひと続きの作品のように感じられる構成になっている。ゲートフォールド仕様で、インサートやダウンロードコードも付属し、LPとEPそれぞれに紙製の内袋が入るなど、アナログ盤としての作りも丁寧だ。
音の印象
この作品でまず耳に残るのは、Robin Pecknoldの歌声を中心にした厚いコーラスの処理である。単独のメロディーを前に出すというより、複数の声が重なって輪郭を作る場面が多く、曲の進行とともに音の密度が変わっていく。ギターは細かいアルペジオだけでなく、曲によっては輪郭を支える役割にまわり、そこへベース、ドラム、鍵盤、そして補助的な楽器が重なる。
聴感上は、アコースティックな響きが前面にある一方で、単なる弾き語り系のフォークとはかなり違う。合唱音楽、ゴスペル、ウェストコースト・ポップ、民謡的な旋律感覚が同居していて、曲ごとに参照点が少しずつ変わる。制作ノートでも、フォーク、ポップ、合唱、ゴスペル、伝統音楽、映画音楽など幅広い要素が挙げられているが、実際の音にもその範囲の広さがそのまま出ている。
代表曲とアルバムの流れ
代表曲として最も知られているのは「White Winter Hymnal」だろう。アルバムの中でも早い段階で印象を残す曲で、反復するフレーズとコーラスの積み重ねがはっきりした形で表れている。後年までライブや編集盤でも触れられることの多い楽曲で、このバンドの名前を広く知らしめた中心曲のひとつである。
アルバム全体では、派手な展開を連続させるより、曲ごとの温度差や声の配置で聴かせる作りになっている。続く『Sun Giant』EPも含めてみると、短い曲の集まりというより、ひとつの長い流れの中で景色が変わっていく印象が強い。Pitchforkがこの作品を高く評価し、EPと合わせて「2枚で1つの作品」のように扱ったのも、その流れの自然さを踏まえた反応だったと考えられる。
同時代との関係
2000年代後半のインディー・フォークには、アメリカ南部や山岳地帯の伝承音楽、室内楽的な編成、コーラスの重視などを取り込む動きがあった。その中でFleet Foxesは、より明確に多声の美しさを前面に出したバンドとして目立っていた。比較対象としては、古いアメリカン・フォークの感触や、ビーチ・ボーイズに通じるコーラスの組み立てを思わせる部分があるし、同時代のインディー・ロックよりも、歌そのものの組み立てに重心がある。
また、Sub Popからのリリースという点も重要である。Seattleのレーベルとしてグランジの文脈で知られるSub Popだが、この時期にはより広いインディー作品を支える役割も強く、このデビュー作はその流れの中で大きく注目された。結果として本作は、単なる新人バンドの初作ではなく、2008年のインディー作品を代表する一枚として受け止められた。
制作とジャケット
録音場所の多さは、この作品の性格をよく示している。ホームレコーディングの親密さと、London Bridge StudioやAvast Studioのような設備のある場所での仕上げが共存していて、音に過度な整いすぎがない。手触りのある録音でありながら、コーラスや楽器の重なりはきちんと整理されている。このバランスが、作品全体の聴きやすさにつながっている。
ジャケットには、Pieter Bruegel the Elderの「The Blue Cloak(De Blauwe Huik)」が使われている。民俗画的な題材を用いたこの選択も、作品の中にある古い民謡や共同体的な響きと相性がよい。音だけでなく、視覚面でもこのアルバムが参照している世界の広さがうかがえる。
まとめ
『Fleet Foxes』は、デビュー作でありながら完成された声の設計と、録音の距離感がはっきりした作品である。2008年当時のインディー・フォークの中でも早い段階で強く評価され、英国チャートにも入っていることからも、作品の広がりは確認できる。Fleet Foxesというバンドの出発点を知るうえで、この一枚はかなり重要な位置にある。『Sun Giant』EPを含めた初期のまとまりも含めて、のちの作品へつながる基礎がここで形になっている、そんな印象のアルバムである。
トラックリスト
- Fleet Foxes
- A1 Sun It Rises
- A2 White Winter Hymnal
- A3 Ragged Wood
- A4 Tiger Mountain Peasant Song
- A5 Quiet Houses
- A6 He Doesn't Know Why
- B1 Heard Them Stirring
- B2 Your Protector
- B3 Meadowlarks
- B4 Blue Ridge Mountains
- B5 Oliver James
- Sun Giant EP
- C1 Sun Giant
- C2 Drops In The River
- C3 English House
- D1 Mykonos
- D2 Innocent Son