Mark Fry / The A. Lords - I Lived In Trees (2011)
Mark Fry / The A. Lords『I Lived In Trees』について
2011年にUKのSecond Languageから出た『I Lived In Trees』は、Mark FryがNicholas PalmerとMichael Tannerのユニット、The A. Lordsと組んだコラボレーション作だ。Mark Fryは1971年の『Dreaming With Alice』で知られる英国のサイケデリック・フォークの人物で、長い沈黙ののちに再び制作へ戻ってきた経歴を持つ。その流れの中で出た本作は、単独の復帰作というより、年を重ねたFryが別の音楽家たちと呼吸を合わせた作品として位置づけられる。
制作の成り立ち
制作は、The A. Lords側が2010年に送ったインストゥルメンタル曲に、Fryが後から詞とメロディを重ねる形で進んだという。ファイルのやり取りを半年ほど続けて完成したとされ、録音も自宅や野外、野原で行われた。整えすぎた音にすると失われるものがある、というFryの考えが反映されたような作りで、素材感のある音像が意識されている。
参加者にはAine O’Dwyerのハープと歌、Jess Sweetmanのフルート、Ellen Mary McGeeの歌とパーカッション、Steve Bentley-Kleinの弦、Nick Franglenのミックス面の調整が加わっている。中心はあくまでFryの歌とThe A. Lordsの伴奏だが、周辺の演奏が細かく重なって、室内楽的なまとまりと素朴な録音感が同居している印象だ。
作品の位置づけ
Mark Fryにとって本作は、2006年の『Shooting the Moon』に続く流れの中にある。1970年代のカルト作『Dreaming With Alice』が長く語られてきた人物だけに、復帰後の作品はどうしてもその代表作と比べられやすいが、『I Lived In Trees』では過去作の影を引きながらも、共同制作ならではの違いが出ている。ひとりで完結する歌ではなく、複数の演奏者の間で余白を残しながら進む構造が、作品全体の輪郭になっている。
当時の評価も好意的で、Uncutは「Fryの3作目にして最良のLP」と評し、The Timesは『Dreaming With Alice』と同じような響きがあるとしつつ、それを欠点とは見ていない。Financial Timesも、ハープやマンドリン、鳥の声が混じる牧歌的な世界として紹介していた。こうした受け止め方からも、作品が70年代のサイケデリック・フォークの記憶を引きつつ、当時の新作としてきちんと聴かれていたことがわかる。
音の印象とパッケージ
実際に聴くと、歌は前に出すぎず、伴奏の隙間にすっと入っていく。ギターやハープ、フルート、弦がそれぞれの役割を保ちながら、音数を増やしすぎないまま流れていくため、曲ごとの輪郭が見えやすい。鳥の声や屋外録音の気配も含めて、スタジオで整えた音とは少し違う、生々しさの残る仕上がりだ。
限定500枚の180g盤で、4面ゲートフォールド仕様。さらにrowan tree、ナナカマドの種の小袋が封入されていたという点も、この作品らしい要素だ。タイトルの『I Lived In Trees』と合わせて、木や土地、自然の手触りをパッケージまで含めて意識した作りになっている。音だけでなく物としての一体感も、Second Languageらしい丁寧なリリースだと言えそうだ。
同時代の文脈
この時期のMark Fryは、70年代の伝説的な名前としてだけではなく、現在進行形のフォーク・アーティストとして見られていた。The A. Lordsのような現行の音楽家と組んだことで、古い録音の再現ではなく、同時代の感覚を持った作品として成立している。比較対象としては、英国のアコースティック・フォークや、周辺にある室内楽寄りのフォーク作品が思い浮かぶが、本作はそうした文脈の中でも、歌と伴奏の距離感がかなり特徴的だ。
大きなヒット曲が前面にある作品ではないが、Mark Fryのキャリアの中では、復帰後の活動を確かなものにした一枚として見られている。『Dreaming With Alice』の後日談というより、長い時間を経た声が、別の世代の演奏と交わった記録として残るアルバムだ。
トラックリスト
- A1 I Lived In Trees 3:33
- A2 Behold The Nereids Under The Green Sea 5:00
- A3 Chalky Down 4:26
- A4 We All Fall Down 5:34
- B1 All Day Long 8:53
- B2 La Lune 0:59
- B3 Ruins Of Stone 2:18
- B4 Even The Sky Goes Blue 3:15
- B5 Taking Wing 4:46