Robert Wyatt - Old Rottenhat (1985)
Robert Wyatt『Old Rottenhat』(1985年)
Robert Wyattの『Old Rottenhat』は、1985年にRough Tradeから発表されたソロ作で、ワイアットの作品群の中でも政治性が前面に出たアルバムとして知られている。元Soft Machineの中心人物として70年代のカンタベリー・シーンを代表してきた彼が、80年代半ばにたどり着いたのは、装飾を抑えた編成のなかで言葉を強く残す作りだった。電子的な質感とロックの枠組みを持ちながら、派手な演奏で押すタイプではなく、歌と鍵盤、そして間の取り方で内容を伝える一枚である。
作品の輪郭
本作は1984年から1985年にかけて、West 3 StudiosとAcre Lane Studiosで録音されている。クレジットを見ると、制作の中心にワイアット本人がいて、かなり小さな体制でまとめ上げたことがうかがえる。録音ノートにはJohn McGowan、Bill Gill Gilonisの名があり、周辺の協力を受けながらも、全体の方向は一貫している。
また、献辞としてMichael Bettanyの名が記されている点も印象に残る。アルバム全体の硬質な空気のなかで、こうした個別の名前が静かに置かれているのがワイアットらしい。
内容と聴こえ方
『Old Rottenhat』は、明確なヒット曲で引っ張る作品ではない。むしろ、曲ごとの言葉や視点が中心にある。本人はこの作品について、右派に回収されない音楽を意識したと語っており、その問題意識は収録曲の題材にもはっきり出ている。英米の帝国主義、東ティモールの状況、硬直したイデオロギーといったテーマが、抑えた歌い回しと曇りのある鍵盤の上に置かれていく。
実際に聴くと、音数の少なさがまず目立つ。音の隙間が多く、演奏が前に出すぎないため、歌詞の輪郭が残りやすい。ワイアットの声はこの時期ならではの細い響きで、強く張るのではなく、低い温度のまま言葉を運ぶ。そのため、内容は直接的でも、音の手触りは非常に抑制的である。派手さを避けた作りが、かえって発言の重さを際立たせている印象だ。
収録曲とエピソード
収録曲の中では「Alliance」がよく知られている。ノーム・チョムスキーへの言及を含む曲として語られることが多く、アルバム全体の政治的な視点を象徴する一曲になっている。メロディだけで押し切るのではなく、思想や立場をそのまま音に接続していく作りで、80年代半ばの空気を切り取った記録としても読める。
この時期のワイアットは、ソフト・マシーン時代の複雑なプログレッシブ・ロックの文脈だけでなく、より簡素な編成や実験的なポップの感覚ともつながっていた。『Old Rottenhat』は、その延長線上で、言葉と最低限の伴奏を軸にした作品として置ける。派手な技巧よりも、曲の置き方や沈黙の扱いに耳が向く一枚だ。
位置づけ
Robert Wyattのソロ作品のなかで見ると、『Old Rottenhat』は、代表曲「Shipbuilding」のような広く知られた楽曲で記憶されるタイプとは少し違う。商業的な広がりよりも、本人の姿勢や問題意識が強く刻まれたアルバムとして受け止められてきた。80年代の英国における政治的緊張、そして音楽がその空気をどう受け止めるかという点で、この作品はかなりはっきりした立場を持っている。
Rough Tradeから出たことも、この作品の性格とよく合っている。インディペンデントな流通とレーベル文化のなかで、こうした発言性の高い作品が出てきたことは、当時の英国音楽のひとつの輪郭でもある。プログレの系譜、実験音楽、左派的な感覚、そして静かな抗議。『Old Rottenhat』は、その交点にあるアルバムとして記録される一枚である。
トラックリスト
- A1 Alliance
- A2 The U.S. Of Amnesia
- A3 East Timor
- A4 Speechless
- A5 The Age Of Self
- A6 Vandalusia
- B1 The British Road
- B2 Mass Medium
- B3 Gharbzadegi
- B4 P.L.A.