Ivor Cutler - Velvet Donkey (1975)
Ivor Cutler『Velvet Donkey』(1975)
Ivor Cutlerの『Velvet Donkey』は、1975年にUKのVirginから出たアルバムだ。スコットランド出身のカトラーは、詩人、語り手、歌い手、作家、教師として活動した人物で、この作品でもその性格がはっきり出ている。一般的なロック・アルバムのように曲を積み上げるというより、短い詩、断片的な歌、寓話のような語り、ジョークめいた言葉が並び、1枚を通してひとつの話芸のまとまりとして聴こえる作りになっている。
Virgin移籍後の時期にあたり、カトラーの中期代表作のひとつとして扱われることが多い。前年の『Dandruff』、翌年の『Jammy Smears』と並べて語られることも多く、この時期にカトラーの録音作法と表現の輪郭がかなり見えやすくなっている。ロックの文脈に置かれながらも、実際には文学、朗読、室内楽の感覚が近い作品だ。
内容の特徴
本作の中心にあるのは、カトラーの独特な語り口だ。大げさな身振りは少なく、淡々とした口調で話しながら、言葉の選び方や間の取り方で印象を作っていく。短い断章が続くため、曲ごとの長さ以上に、ひとつひとつのフレーズの置き方が重要に感じられる。聴いていると、歌というより小さな独白や短編を次々に読んでいるような感覚になる。
演奏面では、カトラー自身のハーモニウムが作品の芯にあり、そこへフレッド・フリスのヴィオラが数曲で加わる。フリスはスリッツやヘンリー・カウ周辺でも知られる音楽家だが、この盤では技巧を前面に出すというより、言葉の隙間に音を置く役回りに近い。さらにフィリス・キングの朗読も含まれていて、アルバム全体にひとり語りだけではない広がりを与えている。
曲の印象
このアルバムには、いわゆるヒット曲のように独立して強く押し出される曲はない。ただ、その中でも「Phonic Poem」は本作を語るうえで触れられやすい。子どもの無表情な語りで交通事故を描くという内容で、カトラーの手法がよく出た一曲として知られている。題材そのものは重いのに、表現はあくまで平熱で、その温度差が作品全体の感触につながっている。
聴感としては、派手な展開や分厚いアレンジに頼らず、言葉の切れ目と音の置き方で進むアルバムだ。音数は多くないが、単調にはならない。むしろ、短い作品が連なっていくことで、ユーモア、気まずさ、やさしさが入れ替わる構造になっている。音楽として聴くこともできるし、朗読作品として受け取ることもできる、その中間にある盤だと思う。
当時の位置づけ
1975年当時の評価では、すでにカトラーの表現を知っている聴き手向けと見られつつ、初めて触れる人にも紹介されていた。少なくとも主要チャートを狙うタイプの作品ではなく、Virginが持っていたアート寄り、実験寄りの文脈の中で受け止められていたはずだ。ロック黄金期の同時代作品と比べると、バンド演奏のダイナミズムよりも、語りと間の精度が前面にある。
同じVirgin周辺でも、プログレッシブ・ロックや前衛的な作品群とは少し違う立ち位置だ。むしろ、ロバート・ワイアットのソロ作や、歌と語りの境界を行き来する表現に近い感触がある。とはいえ、誰かの模倣というより、カトラー自身の言葉の運びがそのまま作品の形式になっているところが大きい。
ジャケットと盤の情報
UK盤はVirginのOVED 34で、1975年のVirginらしい時期の1枚だ。Virginのこの時期のレーベル面はデザイン変遷が細かいが、本作はその1975年前後の流れに位置する。なお、盤面の刻印はスタンプで入れられている。制作面では、ライナーでフレッド・フリスが参加曲について「自身のアレンジを使った」ことがクレジットされているのもポイントだ。
『Velvet Donkey』は、大きく聴かせる作品ではないが、カトラーの言葉の組み立て方や、音と沈黙の扱い方がよく見えるアルバムだ。ロック、詩、語りのあいだにある場所で鳴っている盤として、1975年のVirgin作品群の中でもかなり個性的な存在になっている。
トラックリスト
- A1 If Your Breasts
- A2 I Got No Common Sense
- A3 Useful Cat
- A4 Oho My Eyes
- A5 The Dirty Dinner
- A6 Yellow Fly
- A7 Mother's Love
- A8 The Meadows Go
- A9 Phonic Poem
- A10 Life In A Scotch Sittingroom Vol.2 Ep.2
- A11 Birdswing
- A12 Nobody Knows
- A13 Uneventful Day
- A14 Little Black Buzzer
- A15 Bread And Butter
- B1 A Nuance
- B2 Go And Sit Upon The Grass
- B3 The Even Keel
- B4 Pearly Gleam
- B5 The Best Thing
- B6 Life In A Scotch Sittingroom Vol.2 Ep.7
- B7 Once Upon A Time
- B8 There's Got To Be Something
- B9 The Purposeful Culinary Implements
- B10 Gee, Amn't I Lucky
- B11 The Curse
- B12 I Think Very Deeply
- B13 I, Slowly
- B14 Sleepy Old Snake
- B15 Titchy Digits
- B16 The Stranger