The Weeknd - Trilogy (2012)
The Weeknd『Trilogy』――ミックステープ期をひとまとめにした、初期像をたどるための一作
The Weekndの『Trilogy』は、2012年に配信・発表された初期ミックステープ群を、2013年にひとつの作品としてまとめたリリースである。収録内容は『House of Balloons』『Thursday』『Echoes of Silence』の3作を軸にした構成で、The Weekndという名前が広く知られる前夜の空気を、そのまま束ねたような位置づけにある。のちにポップ・フィールドへ大きく広がっていく彼のキャリアを振り返るとき、この作品は出発点を確認するための重要なまとまりとして見えてくる。
アーティストとしてのThe Weekndは、カナダ・トロント出身のR&Bシンガー、ソングライター、プロデューサー。エチオピア系のバックグラウンドを持ち、2010年代以降のコンテンポラリーR&Bを語るうえで欠かしにくい存在になった。『Trilogy』は、その後の大きな成功作よりも前の段階にあるため、歌のつくりや音の置き方、ムードの作り方がかなりはっきり見える。華やかなヒット曲中心というより、夜の時間帯に寄った密度の高い作品集という印象が強い。
作品の輪郭と、2013年盤としての意味
この盤はUSリリースの2013年盤。オリジナルとしては2012年にまとまった作品群を、改めて1枚のアルバム的な形で受け取れる仕様になっている。レーベルはXO。The Weeknd自身の活動と強く結びついたレーベルで、初期の世界観をそのままパッケージしたような空気がある。3本のミックステープを連ねた構成のため、1枚のアルバムとして聴くと、曲ごとの温度差や音像の切り替わりも含めて作品の流れが見えやすい。
音楽的には、Electronic、Hip Hop、Funk / Soul、Popといった要素が並ぶが、実際の聴感ではコンテンポラリーR&Bの骨格が中心にある。ビートの組み方はヒップホップ寄りで、空間の広さやシンセの扱いには電子音楽的な感触がある。そこにソウル由来のメロディの運びが乗るため、単に暗いとか内省的というだけではなく、曲ごとの輪郭がくっきりしているのが特徴的だ。
収録曲の流れに見える初期The Weeknd
『Trilogy』を通して聴くと、The Weekndの初期像はかなり一貫している。声はやや細身で、ファルセットと地声の切り替えが目立つ。歌い方は強く押し出すというより、フレーズの終わりを少し崩して引き込むタイプで、ビートの上に残る余韻が長い。派手なサビでまとめるというより、1曲の中で同じ感情の輪郭を少しずつ広げていく設計が多い。
また、収録曲の並び方にも特徴がある。高揚感を前面に出す場面と、音数を抑えて沈める場面が交互に来るため、長尺でも流れが単調になりにくい。ミックステープ3作分をひとまとめにした作品らしく、ひとつのアルバムに統一されきっていないぶん、逆に当時の制作の幅が見えやすい。後年のThe Weekndにある大規模なポップ・プロダクションとは違い、ここではまだ部屋の空気感が残っている。
代表曲「Wicked Games」
『Trilogy』の中でも特に知られているのが「Wicked Games」だろう。The Weeknd初期の代表曲として語られることが多く、彼の特徴がかなり端的に出ている。曲の中心にあるのは、感情を大きく説明しないまま、欲望と空虚さの境目を行き来するような歌い方。ビートは派手ではないが、低音の存在感が強く、声の細かな揺れが前に出るつくりになっている。
この曲が印象に残るのは、メロディのわかりやすさよりも、空間の使い方にある。音が詰まりすぎず、それでいて隙間が空きすぎない。結果として、聴き手は歌詞の内容を追うというより、歌の温度そのものを受け取ることになる。The Weekndがのちにポップスターとして広く認識される前から、すでにこの曲で独自の立ち位置を示していたことがわかる。
「The Hills」以前につながる感触
『Trilogy』には、のちの大ヒット曲群に直結するような、メロディの運びやダークな空気がすでに見えている。たとえば、後年の「The Hills」や「Can't Feel My Face」のような大きな輪郭を持つ曲に比べると、ここではまだラフさが残るが、そのぶん感情の芯が見えやすい。ポップに寄っていく前の段階として聴くと、The Weekndの作曲や歌唱がどこから伸びていったのかが追いやすい。
同時代のR&Bと比べても、『Trilogy』は少し立ち位置が違う。滑らかなラジオ向けR&Bというより、ヒップホップの空気と密室感を強く持った作りで、同系統のムードを共有するアーティストと並べても、声の処理や曲の暗さの出し方に個性がある。2010年代前半のR&Bがポップ化へ向かう流れの中で、この作品はその前段階の手触りを残した記録としても読める。
まとめ
『Trilogy』は、The Weekndの初期3作をひとつに束ねたことで、彼の原点をまとまった形で示す作品になっている。2013年盤として手に取ると、単なる編集盤というより、初期の美学を一気に確認できる整理版のようにも見える。電子音の冷たさ、ヒップホップ由来のビート感、ソウル的なメロディ、そしてファルセット主体の歌唱。その組み合わせが、のちの大きな成功の前にすでに形になっていることが、この作品の面白さだと思う。
トラックリスト
- House Of Balloons
- A1 High For This 4:07
- A2 What You Need 3:16
- B1 House Of Balloons / Glass Table Girls 6:47
- B2 The Morning 5:16
- B3 Wicked Games 5:25
- C1 The Party & The After Party 7:39
- C2 Coming Down 4:55
- D1 Loft Music 6:04
- D2 The Knowing 5:41
- D3 Twenty Eight 4:18
- Thursday
- E1 Lonely Star 5:49
- E2 Life Of The Party 4:57
- F1 Thursday 5:20
- F2 The Zone 6:59
- F3 The Birds Pt. 1 3:14
- G1 The Birds Pt. 2 5:51
- G2 Gone 8:08
- H1 Rolling Stone 3:51
- H2 Heaven Or Las Vegas 5:53
- H3 Valerie 4:46
- Echoes Of Silence
- I1 D.D. 4:35
- I2 Montreal 4:11
- I3 Outside 4:20
- J1 XO / The Host 7:24
- J2 Initiation 4:21
- K1 Same Old Song 5:12
- K2 The Fall 5:45
- K3 Next 6:00
- L1 Echoes Of Silence 4:00
- L2 Till Dawn (Here Comes The Sun) 5:19
動画
- The Weeknd - Wicked Games (Official Video - Explicit)
- The Weeknd - Rolling Stone (Explicit) (Official Video)
- The Weeknd - The Zone ft. Drake (Official Video)
- The Weeknd - Echoes of Silence (Official Music Video)