Khruangbin - Mordechai (2020)
Khruangbin『Mordechai』――歌を前面に出した転機の2020年作
Khruangbinの『Mordechai』は、2020年にDead Oceansからリリースされた3作目のスタジオ・アルバムだ。アメリカ・テキサス州ヒューストンを拠点にしながら、メンバーそれぞれの出自や聴いてきた音楽の幅を作品に持ち込んできたバンドで、この盤でもその個性ははっきりしている。ファンク、ソウル、サイケデリック、ディスコ、コンテンポラリーR&Bといった要素を横断しつつ、演奏の輪郭は崩さず、曲としての見通しを強めた一枚という印象が強い。
Khruangbinは、ドナルド・“DJ”・ジョンソンJr.、ローラ・リー、マーク・スピアの3人組。結成以来、ベースとドラムの反復、ギターの細かなフレーズ、必要以上に音を詰め込まない構成で知られてきたが、『Mordechai』ではそこに歌がしっかり入る。従来のほぼインスト主体の作風から、ボーカルを作品の中心に置いた点が、このアルバムを語るうえで最も大きい変化だ。
テキサスの農家スタジオで時間をかけて作られた作品
制作の背景もこの盤の性格をよく表している。バンドは約3年半におよぶツアーを終えたのち、テキサス州バートンの農家スタジオに戻り、時間をかけて制作を進めたとされる。外から見れば国際色の強い音楽を鳴らすバンドだが、作業環境はかなりローカルで、そこで生まれた音は過度に都会的ではない。音数を絞ったリズム隊と、余白の多いギター、低く落ち着いた歌の配置が、曲ごとの流れを支えている。
アルバム全体には、旅の途中で拾った断片をつなぎ合わせたような感触がある一方で、単なるムードの連続にはなっていない。Dead Oceansの説明でも、ヒューストンという多文化的な街への祝祭として位置づけられており、その視点で聴くと、ジャンルの混交が「装飾」ではなく土地の実感として置かれていることが分かる。
歌が入ったことで見えてくる輪郭
本作の聴きどころは、やはり歌の扱いだろう。Khruangbinは以前から、演奏の気配だけで場面を立ち上げるバンドとして評価されてきたが、『Mordechai』ではその方法を保ちながら、言葉のある曲の比重を上げている。Pitchforkは、歌が入ることで楽曲性が増した一方、以前よりも部屋に置かれた音楽のような印象が強まったと評している。実際、派手な展開で押し切るのではなく、同じフレーズやビートを少しずつずらしながら、曲の中で温度を作っていく場面が多い。
そのなかで特に耳に残るのが、ボーカルの存在感が前に出る曲だ。歌があることで、これまでのKhruangbinにあった“距離を置いた観察”のような感触が少し変わり、言葉の持つ直接性が加わっている。とはいえ、演奏が主役であることは変わらず、ベースのうねり、ドラムの間合い、ギターの細い装飾が、歌を支える土台として機能している。
同時代の文脈の中で
Khruangbinは、いわゆるワールドミュージック的な受け取られ方をされることもあるが、『Mordechai』ではそうした単純な分類からは少し離れている。むしろ、70年代のファンクやソウル、ディスコの骨格を参照しながら、現代のR&B的な滑らかさを加えた作品として聴こえる。比較対象を挙げるなら、同じくリズムの反復と音色の整理で聴かせるソウル/ファンク系の現行バンドや、インストの質感を重視するサイケデリック系の作品群が思い浮かぶが、Khruangbinの場合はそこにテキサスの空気感がはっきり残る。
また、バンド名がタイ語の「เครื่องบิน(クルアンビン)」、つまり飛行機を意味することも、この音楽のあり方とよくつながっている。さまざまな地域の音楽要素を横断しながら、ひとつの場所に収束させるのではなく、移動し続ける感覚を保っている点が、このグループの持ち味だろう。『Mordechai』では、その移動感が以前よりも曲の形にきっちり落とし込まれている。
盤としての仕様
この2020年盤は、標準的なブラック・ヴァイナル仕様で、ダウンロードカード付き、ゲートフォールド仕様となっている。さらに、Recordstore.co.uk限定で、Laura Leeのサイン入り・手書きナンバリング入りアートプリントを同封した1000枚限定の予約盤も存在した。コレクション性の高い仕様が用意された点からも、発売時の注目度の高さがうかがえる。
まとめ
『Mordechai』は、Khruangbinにとって大きな節目の作品だ。インスト主体のバンドとして評価を積み上げてきた流れの先で、歌と作曲の比重を広げ、より広いリスナーに届く形へと輪郭を整えたアルバムといえる。KEXPの年間ベストにも選ばれるなど、批評面でも存在感を示した一枚で、2021年の『Mordechai Remixes』へつながる反響も含めて、バンドの活動が新しい段階に入ったことを示している。演奏の細部を追う楽しさと、曲としての分かりやすさが同居した、2020年のKhruangbinを代表する作品だ。
トラックリスト
- A1 First Class
- A2 Time (You and I)
- A3 Connaissais De Face
- A4 Father Bird, Mother Bird
- A5 If There Is No Question
- B1 Pelota
- B2 One To Remember
- B3 Dearest Alfred
- B4 So We Won’t Forget
- B5 Shida
動画
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Khruangbin - First Class (Taken from the album "Mordechai")
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Khruangbin - Time (You and I) (Official Video)
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Khruangbin - Connaissais (Taken from the album "Mordechai")
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Khruangbin - Father Bird, Mother Bird (Taken from the album ‘Mordechai’ )
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Khruangbin - If There is No Question (Taken from the album ‘Mordechai’)
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Khruangbin - Pelota (Official Video)
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Khruangbin - One to Remember (taken from the album ‘Mordechai’)
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Khruangbin - Dearest Alfred (Official Video)
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Khruangbin - So We Won't Forget (Official Video)
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Khruangbin - Shida (Taken from the album ‘Mordechai’)