Tribo Massáhi - Estrelando Embaixador (1972)
Tribo Massáhi『Estrelando Embaixador』
トリーボ・マッサーイ(Tribo Massáhi)の『Estrelando Embaixador』は、1972年にブラジルの極小インディペンデント・レーベルRiver'sからリリースされた唯一のアルバム。長年にわたり世界中のレコード・コレクターの間で「ブラジル産アフロ・サイケの究極の聖杯(Holy Grail)」として語り継がれてきた伝説的作品である。2015年にサンパウロの気鋭レーベルGoma Gringaがジャーナリストのイタマール・ダンタスによる詳細な調査ライナーノーツ付きでオフィシャル・リイシューを実現し、その驚異的なサウンドと歴史が世界へ知れ渡ることとなった。
制作背景・エピソード
この異色のプロジェクトを率いたのは、リオデジャネイロのコパカバーナ界隈で知られた黒人表現者、セバスティアン・ローザ・ジ・オリヴェイラ(Sebastião Rosa de Oliveira)。英語やフランス語を流暢に操る博学さから「エンバイシャドール(Embaixador=大使)」の通称で親しまれ、俳優や美術家、黒人文化の運動家としても活動していた。本作はリオのセナード通りにあった「Rio Som」スタジオにて、彼が率いるグループによってわずか1日で一気呵成に録音された。
ごく少部数のみプレスされたオリジナル盤は長年詳細が不明で、「ナイジェリアのグループ」「ソウル歌手トニー・トルネードの兄弟」「家具屋のノベルティ」といった都市伝説が飛び交っていたが、イタマール・ダンタスの粘り強い調査によってその真実が解き明かされた。
時代の文脈とサウンド
1970年代初頭のブラジルは軍事独裁政権下にあり、トロピカリアのムーヴメントを経て、アフロ・ブラジル文化の自己主張やアフリカ回帰の潮流が水面下で高まっていた時期にあたる。トリーボ・マッサーイの音楽は、一般的なMPBやソウル・ミュージックの枠組を遥かに超越している。ヨルバ起源の民間信仰「カンドンブレ」の儀礼的ビートとナゴ(Nagô)語などの呪術的チャント、そして同時代のサイケデリック・ロックやファンクを直接交差させた、極めて先鋭的で原始的な衝動に満ちている。
アルバムの構成も極めて前衛的で、曲間に無音のインターバルを挟まず、A面(「Timolô Timodê」を軸とする組曲)とB面(「Lido's Square」を軸とする組曲)のそれぞれが1本の途切れない祝祭セッションとして展開する。「Walk By Jungle」「Fareuá」「Pae João」など、乱れ打たれるアフロ・パーカッションと手拍子、ファズの効いたサイケデリック・ギターのフリークアウト、高らかに響く女性コーラス、そしてスタジオ内の歓声や話し声が渾然一体となり、密林の儀式と都会のストリートが交錯するような狂気と陶酔の音響空間を生み出している。
後世への影響
オリジナル盤は極度の希少性から、コレクターズ市場で数千ドル(数十万円〜百万円超)の高値で取引されてきた。2015年の完全オフィシャル復刻以降は、ルラ・コルテスやゼ・ハマーリョと並ぶ南米サイケデリック・ロックの頂点として、またアフロ・サイケ/レア・グルーヴの金字塔として世界中の音楽メディアで大絶賛を浴びた。リリース当時は自主制作に近い流通で商業チャートとは無縁だったが、半世紀を経てブラジル音楽史上もっとも特異でパワフルな奇跡の名盤として燦然たる評価を確立している。
トラックリスト
- Timolȏ Timodê
- A1 Walk By Jungle
- A2 Fareuá
- A3 Harmatan
- A4 Dandara
- Lido's Square
- B1 Pae João
- B2 Menina De Janela
- B3 Oan
- B4 Madrugada Sem Luar