Jorge Ben - A Tábua De Esmeralda (1974)
Jorge Ben 1974

Jorge Ben - A Tábua De Esmeralda (1974)

Latin Samba MPB

Jorge Ben『A Tábua De Esmeralda』──錬金術とブラジル音楽が交差する1974年作

Jorge Ben(のちのJorge Ben Jor)が1974年にブラジルのPhilipsから発表した『A Tábua De Esmeralda』は、彼のディスコグラフィーの中でも特に個性の強いアルバムだ。サンバとMPBを土台にしながら、ファンク、フォーク、ジャズ、アフロ・ブラジルのリズムを組み込み、ひとつのコンセプト作品としてまとめ上げている。Jorge Benの音楽は、初期のサンバ的な作風から出発し、のちに『África Brasil』(1976年)でエレクトリック寄りのサンバ・ロックへ進むが、本作はその直前、アコースティック・ギターを前面に出した時期の到達点として位置づけられる。

錬金術と神秘主義を軸にした構成

この作品の特徴は、当時のJorge Benが傾倒していた神智学や神秘主義、とりわけ錬金術への関心が、曲名や歌詞、ジャケットにまで反映されている点にある。タイトルの「A Tábua De Esmeralda」は、ヘルメス・トリスメギストスに帰される錬金術の根本文書「エメラルド板」を指す。ジャケットには、賢者の石の伝説で知られる14世紀パリの錬金術師ニコラ・フラメルの図版が用いられている。アルバム全体に、学問的というよりは、神秘思想を日常語のように取り込んだ独特の感覚が流れている。

収録曲の題名にもその傾向がはっきり出ている。たとえば「O Homem Da Gravata Florida」は副題に「パラケルススの花柄のネクタイ」とあり、「O Namorado Da Viúva」はニコラ・フラメルを示唆する内容として知られる。B面後半の長い曲名では、ヘルメス・トリスメギストスの文書を「Fulcanelli訳」と記しており、錬金術の言語がそのままポップソングの題材として置かれている。

神秘主義だけで終わらない楽曲群

一方で、本作は神秘思想一色ではない。「Zumbi」では、逃亡奴隷の共同体キロンボ・ドス・パルマーレスの指導者ズンビを讃え、アフロ・ブラジルの歴史とアイデンティティを前面に出している。ここには、単なる幻想趣味ではなく、ブラジルのルーツを見つめる視点がある。「Menina Mulher Da Pele Preta」や「Magnólia」のようなラブソングも並び、テーマの幅は広い。神秘、歴史、恋愛が同じ温度で並ぶ構成が、このアルバムの面白さになっている。

サウンドの印象

音の中心にあるのは、Jorge Ben特有のアコースティック・ギターだ。コードを刻むというより、打楽器のように弾き鳴らす奏法が全編を支えていて、その上に歌とリズムが乗る。サンバの推進力を保ちながら、ファンクの反復感、ジャズ的な和声感、フォークの素朴さが自然に混ざっていく。聴感上は派手な展開が連続するタイプではなく、一定のリズム感の中で言葉とフレーズが積み重なっていく作りだ。

実際に聴くと、神秘的な題材を扱っていても音楽は重くならず、むしろ身体の動きに結びつく。ギターの刻み、コーラス、リズムの配置が明快で、観念的な内容を持ちながらも、耳に入る情報は整理されている。Jorge Benの作品らしく、知的なモチーフと踊れる感覚が同居している。

評価と位置づけ

本作は、Jorge Benの代表作としてよく挙げられる。Rolling Stone Brasil誌の「ブラジル音楽史上最高のアルバム100」では6位に選ばれ、AllMusicでも高評価を得ている。Tom Moonの『1,000 Recordings to Hear Before You Die』にも掲載されており、ブラジル音楽の枠を超えて参照されてきたアルバムでもある。代表曲としては「Os Alquimistas Estão Chegando Os Alquimistas」「Errare Humanum Est」「Zumbi」などが特に知られている。

同時代のブラジル音楽を見渡すと、MPBの洗練と地域性、そして黒人音楽やアフロ・ブラジル文化への意識が強まっていた時期で、本作もその流れの中に置ける。Jorge Benは、その中でサンバを出発点にしながら、独自のリズム感と語り口で別の場所に進んでいった人物だ。のちのサンバ・ロックやブラジル音楽のクロスオーバーを考えるうえでも、このアルバムの存在感は大きい。

このブラジル盤について

ここでの盤は、1974年のブラジル盤オリジナル、Philips 6349 083。セミグロスのラミネート加工ジャケットに、ブルー地へシルバーで印刷されたレーベルが特徴だ。レーベル外周のリムの有無で2種類のバリエーションがある。オリジナル期の空気をそのまま持った仕様で、作品の内容とパッケージがよく結びついている。

『A Tábua De Esmeralda』は、Jorge Benの音楽性がもっとも濃く出たアルバムのひとつであり、錬金術のイメージを借りながら、ブラジル音楽のリズムと歌の強さをきちんと前に出した作品だ。観念と身体感覚の両方を持つ、1970年代ブラジル音楽の重要作として記憶されている。

トラックリスト

  1. A1 Os Alquimistas Estão Chegando Os Alquimistas 3:16
  2. A2 O Homem Da Gravata Florida (A Gravata Florida De Paracelso) 3:06
  3. A3 Errare Humanum Est 4:55
  4. A4 Menina Mulher Da Pele Preta 2:56
  5. A5 Eu Vou Torcer 3:13
  6. A6 Magnólia 3:13
  7. B1 Minha Teimosia, Uma Arma Pra Te Conquistar 2:43
  8. B2 Zumbi 3:29
  9. B3 Brother 2:54
  10. B4 O Namorado Da Viúva 2:02
  11. B5 Hermes Trismegisto E Sua Celeste Tábua De Esmeraldas (Tratado Hermético Escrito Pelo Faraó Egpicio Hermes Trimegisto E Traduzido Por Fulcanelli) 5:28
  12. B6 Cinco Minutos (5 Minutos) 2:57

動画プレイリスト

公開: 2026年10月

このアーティストについて

Jorge Ben

Jorge Ben

Jorge Ben(1988年以降は Jorge Ben Jor 名義でも活動)は、1939年3月22日にブラジル・リオデジャネイロで生まれたミュージシャン、ボーカリスト、ソ...

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