Chico Buarque - Chico Buarque (1978)
Chico Buarque 1978

Chico Buarque - Chico Buarque (1978)

Jazz Latin Bossa Nova Samba

Chico Buarque『Chico Buarque』(1978年、ブラジル盤オリジナル)

ブラジルのシンガーソングライター、Chico Buarqueが1978年にPhilipsから発表したセルフタイトル作。ブラジル盤オリジナルはPhilips 6349 398で、歌詞や参加ミュージシャン、アレンジャーを記したブックレット付き。軍事政権下の検閲で長く表に出しにくかった楽曲をまとめて収めた一枚として知られ、Chicoの作品史の中でも政治性と音楽性が強く結びついた時期を示している。

検閲をくぐり抜けた曲、ようやく録音された曲

このアルバムでまず重要なのは、「Cálice」「Apesar De Você」「Tanto Mar」といった曲が一つの作品に並んでいる点だ。いずれもChicoのキャリアを語るうえで外せない楽曲で、単なるヒット曲集ではなく、ブラジルの政治状況と直接つながった記録としても機能している。

「Cálice」は1973年、Chico BuarqueとGilberto Gilの共作として生まれた。タイトルの杯と黙れを重ねた言葉遊びが核にあり、宗教的な響きを借りながら検閲と抑圧を告発する曲だ。完成後は検閲で止められ、1973年のPhono 73では2人が歌おうとしてもマイクが切られ、演奏が妨げられた。本盤ではその曲が正式に録音され、Milton Nascimentoがヴォーカルで参加している。ブックレットにEMI-Odeonへの謝辞があるのも、この参加の背景を示している。

「Apesar De Você」は1970年のシングル曲。表向きは失恋歌の体裁を取りながら、実際には当時のMédici政権を批判する内容として受け取られ、のちに発禁となった。発売当初は検閲をすり抜けて大きなヒットになり、のちに政治性が明確に認識された曲でもある。ブラジルのMPBの中で、個人的な語りと政治的メッセージが同居するChicoらしさを端的に示す一曲だ。

「Tanto Mar」はポルトガルのカーネーション革命に寄せた作品で、1975年のMaria Bethâniaとのライヴ盤では歌詞付きで出せず、インストゥルメンタルにとどまった経緯がある。本盤では歌詞付きで収録され、情勢の変化を踏まえた改訂も加えられている。政治状況に応じて曲の意味が変わっていく、その過程まで含めて興味深い。

楽曲の並びと参加者

本作には、政治色の強い曲だけでなく、作曲家としてのChicoの幅を感じさせる曲も入っている。「Trocando Em Miúdos」と「Pivete」はFrancis Himeとの共作。「O Meu Amor」ではElba RamalhoとMarieta Severo、「Pedaço De Mim」ではZizi Possiが声を添える。「Pequena Serenata Diurna」はキューバのSilvio Rodríguezの作品で、ラテンアメリカのシンガーソングライター同士のつながりも見える。

プロデュースはSérgio de Carvalho。演奏面では、ブックレットに記された参加者とあわせて、当時のブラジル音楽シーンの厚みがそのまま反映されている。Chicoの作品は、ボサノヴァの洗練だけでなく、サンバの語り口、MPBの作家性、政治的な歌の役割が重なっている点に特徴がある。この一枚もその流れの中にある。

1978年という位置づけ

1978年は、ブラジル軍事政権下でも政治的な緩和、いわゆるアベルトゥーラが進み始めた時期。本作は、その空気の中で、以前なら表に出しにくかった曲がまとまって世に出たアルバムとして読める。Chico Buarqueにとっても、作家性の強い作品群を再び前景化させた時期であり、単独の新作というより、これまで抑えられていた表現が一つの形になった盤面という印象が強い。

反響も大きく、予約だけで3万枚に達し、1979年には15万枚を超えてゴールドディスクに認定された。さらに『Manchete』誌では1980年3月時点で70万枚に達したとされる。AllMusicでも4つ星評価が付いており、作品の評価は制作背景だけでなく、実際の聴取体験としても高く受け止められてきたことがわかる。

音の印象

実際に聴くと、重い題材を扱いながらも、曲の運びはきっちり整っていて、歌詞の強さが前に出る作りになっている。特に「Cálice」や「Tanto Mar」では、言葉の切れ味と旋律の運びが近く、静かな曲調の中で内容がはっきり残る。反対に「O Meu Amor」のような曲では、デュエットやコーラスが加わることで、Chicoのアルバムの中でも少し表情が開く。派手な音作りではなく、歌と詞の輪郭を見せる構成。

ブラジル音楽史の中では、Caetano VelosoやGilberto Gil、Milton Nascimentoらと並ぶMPBの重要人物としてChico Buarqueが語られることが多いが、このアルバムはその中でも、検閲と抵抗、そして作家としての成熟が同時に見える一枚として扱いやすい。1978年のブラジル盤オリジナルは、その時代の空気をそのまま閉じ込めた具体的な資料でもある。

トラックリスト

  1. A1 Feijoada Completa 2:50
  2. A2 Cálice 4:00
  3. A3 Trocando Em Miúdos 2:50
  4. A4 O Meu Amor 4:00
  5. A5 Homenagem Ao Malandro 2:50
  6. B1 Até O Fim 2:24
  7. B2 Pedaço De Mim 3:16
  8. B3 Pivete 2:27
  9. B4 Pequena Serenata Diurna 2:21
  10. B5 Tanto Mar 1:54
  11. B6 Apesar De Você 3:53

動画プレイリスト

公開: 2026年10月

このアーティストについて

Chico Buarque

Chico Buarque

Chico Buarque(本名 Francisco Buarque de Hollanda)は、1944年6月19日にブラジル・リオデジャネイロで生まれたシンガー・ソングライター、劇作家、...

Chico Buarque のプロフィール・作品一覧
Share
戻る

あわせて聴きたい "Bossa Nova"

toast