Wobbler - Dwellers Of The Deep (2020)
Wobbler『Dwellers Of The Deep』について
ノルウェーのシンフォニック・プログレッシブ・ロック・バンド、Wobblerが2020年に発表した5作目のアルバムが『Dwellers Of The Deep』だ。1999年にヘーネフォスで結成されてから一貫して、70年代プログレの語法を土台にしながらも、単なる復古ではない自分たちの音を組み立ててきたバンドで、この作品でもその姿勢がはっきり出ている。リリースはノルウェーのKarisma Recordsからで、ゲートフォールド仕様の黒盤、歌詞シート付き。録音は2019年夏、2019年冬、2020年春にかけて断続的に行われた。
アルバムの輪郭
『Dwellers Of The Deep』は全4曲構成で、短い曲を長尺曲の間に挟んだ配置になっている。冒頭の「By The Banks」は約14分、終盤の「Merry Macabre」は約19分と、バンドの持ち味である組曲的な展開が前面に出る作りだ。その間に置かれた「Five Rooms」と「Naiad Dreams」が、曲間の緊張と緩和を調整している。シングルとして映像も公開された「Five Rooms」は、本作の入口として機能する曲で、アルバム全体の構成感をつかみやすい。
実際に聴くと、音の重なり方が細かい。キーボード、ギター、ベース、ドラムがそれぞれ前に出る場面を持ちながら、すぐに全体へ戻っていく。ひとつのリフを長く引っ張るより、パートを切り替えながら場面を進めるタイプで、細部の変化が多い。Tony Johannessenの時代から続くバンドの声の使い方も踏まえつつ、現在のヴォーカルであるAndreas Wettergreen Strømman Prestmoが、旋律線の上で曲を押し進めていく印象が強い。
70年代プログレの文脈の中で
Wobblerは、PFM、King Crimson、Gentle Giant、Yes、Museo Rosenbach、ELPといった70年代プログレの系譜に近いバンドとして語られることが多い。本作でもその影は見えるが、引用の寄せ集めにはなっていない。複雑な拍子や展開の多さを並べるだけでなく、旋律の運びとアレンジの切り替えで聴かせるところがある。ノルウェーのプログレ文脈では、同じく長編志向の作品を作るバンド群と並べて語られることが多いが、Wobblerはその中でもオルガンやシンセの使い方が前面に出やすい。
アルバムタイトルの『Dwellers Of The Deep』は、ジャケットの図版とも結びついている。17世紀の学者Athanasius Kircherによる、海と地中の水路、山中の貯水槽を結ぶ地下水系の図が使われており、見た目にも内容にも「地下」「深部」「循環」といった感覚が通っている。音楽面でも、表層だけでなく、曲の内部を行き来するような組み立てが印象に残る。
収録曲と聴きどころ
「By The Banks」はアルバムの導入として、長尺曲らしい多層的な展開を示す。「Five Rooms」はシングルとして先に触れやすい曲で、アルバムの中では比較的入り口がわかりやすい位置にある。「Naiad Dreams」は曲名どおり水辺や神話的なイメージを思わせる流れを持ち、終盤の「Merry Macabre」へ向けて空気を整える役割がある。そして最後の「Merry Macabre」が本作の核だ。複数のレビューで高く評価され、バンドの代表的な大曲として扱われることもある。長い曲だが、ただ引き延ばすのではなく、場面転換の回数が多く、アルバムの中で最も情報量が多い。
2020年作として見ると、Wobblerのキャリアの中でも成熟が見える作品だ。結成から20年近くを経て、70年代プログレへの敬意を保ちながら、演奏の密度と構成の緻密さで勝負している。派手な話題性より、作り込みの深さで評価を集めた一枚として受け止められている。
まとめ
『Dwellers Of The Deep』は、Wobblerが積み上げてきたシンフォニック・プログレの手法を、2020年時点の完成度でまとめたアルバムだ。長尺曲を軸にしつつ、曲順とアレンジでアルバム全体を通す構成、地下水路の図版を使ったジャケット、断続的な録音期間など、作品の輪郭はかなり明確。70年代プログレの参照点を持ちながら、ノルウェーの現行プログレとして独自の位置を保つ作品として記憶されている。
トラックリスト
- By The Banks
- A2 Five Rooms
- B1 Naiad Dreams
- Merry Macabre