Vinyl Record Reviews
Archie Whitewater(アーチー・ホワイトウォーター)は、1970年にアメリカ・ニューヨークで結成された9人組のジャズ・ロック/サイケデリック・ソウル・アンサンブル。「アーチー・ホワイトウォーター」とは実在の人物名ではなく、メンバーのオルガン奏者トラヴィス・ジェンキンス(Travis Jenkins)が名乗っていたチェロキー族に由来する名前にちなんで名付けられた。
ブラス・ロックの力強い推進力、サイケデリック・ロックの幻想的な音響美、そして洗練されたジャズの語法をブレンドした唯一無二のサウンドを誇り、残された唯一のアルバムはレア・グルーヴの歴史的傑作として世界中のレコード・コレクターやDJから神聖視されている。
彼らが公式に残したアルバムは、1970年8月にチェス・レコード傘下の先鋭的レーベル「カデット・コンセプト(Cadet Concept)」から発表されたセルフタイトルの『Archie Whitewater』のみである。
プロデュースはレーベル創設者であるマーシャル・チェス(Marshall Chess)自らが担当し、エンジニアには後にスティーヴィー・ワンダーの歴史的名盤群を音響面で支え、シンセサイザー集団Tonto's Expanding Head Bandでも知られるマルコム・セシル(Malcolm Cecil)が参加。幻のセカンド・アルバム用セッションも行われたものの発売には至らず、バンドはこの1作を残して忽然と姿を消した。
本作の最大の特色は、重厚なホーン・セクションとヴィブラフォンの透明感あふれる響き、そして紅一点のシンガーであるリン・シェフィールド(Lynn Sheffield)の切なくソウルフルな歌声が織りなす独特の空気感にある。
当時のシカゴやブラッド・スウェット&ティアーズに代表されるブラス・ロック的な熱量を有しながらも、決して大味になることなく、深いリバーブを効かせたサイケデリックな浮遊感とジャジーで内省的なメロウネスを共存させている。ギタリストのポール・メツケをはじめとする一流プレイヤーたちの確かな演奏力も相まって、時代の枠を超越したシネマティックなグルーヴが生み出されている。
長年カルト的な扱いを受けていた本作が一躍世界的な脚光を浴びたのは、ヒップホップ世代によるサンプリングがきっかけであった。
特にオープニングを飾る名曲「Cross Country」は、その哀愁漂うメロウなイントロがカニエ・ウェスト(Kanye West)のプロデュースによってコモン(Common)の代表曲「The Food」(2005年の名盤『Be』収録)にサンプリングされたことで知られる。さらにマッドリブ(Madlib)とフレディ・ギブス(Freddie Gibbs)による「Robes」(2014年)などにも引用され、ヒップホップ/レア・グルーヴ界における究極のサンプリング・クラシックとして決定的な評価を確立した。