Vinyl Record Reviews
Moby Grape(モビー・グレープ)は、1966年秋に米サンフランシスコで結成された伝説的ロック・バンドである。元ジェファーソン・エアプレインの初代ドラマーであったスキップ・スペンス(Alexander "Skip" Spence)を中心に結成され、メンバー5人全員が優れたソングライターでありリード・ボーカルを取れるという類まれな才能を結集。フォーク、ブルース、カントリー、ロックンロール、サイケデリックを融合させたトリプル・ギター・アンサンブルで、60年代後半のウェストコースト・ロックを代表する存在となった。
メンバーは、スキップ・スペンス(ギター/ボーカル)、ジェリー・ミラー(ギター/ボーカル)、ピーター・ルイス(ギター/ボーカル)、ボブ・モズリー(ベース/ボーカル)、ドン・スティーヴンソン(ドラムス/ボーカル)の5人。全員が曲を書き歌う民主的なグループ構成は当時としては極めて革新的であり、楽曲ごとに多彩な表情を見せる緻密なアンサンブルを誇った。
サンフランシスコ・シーンで評判を呼び、大手レーベルによる激しい争奪戦の末にコロンビア・レコードと契約。デヴィッド・ルビンソンのプロデュースにより、1967年6月にデビュー・アルバム『Moby Grape』を発表した。「Omaha」「Hey Grandma」「8:05」「Fall on You」など粒ぞろいの名曲を収めたこの作品は、全米アルバムチャート24位を記録し、ロック史上最も完成度の高いデビュー・アルバムの一つとして絶賛された。
しかしコロンビアは宣伝のため、アルバムからシングル5枚(計10曲)を同日同時にリリースするという前代未聞の過剰なマーケティングを展開。これがラジオ局やレコード店を混乱させ、大衆の反発を招くこととなり、バンドの順調なセールス拡大に大きな影を落とした。
1968年のセカンド・アルバム『Wow/Grape Jam』制作中、過密なスケジュールとLSD乱用が引き金となり、スキップ・スペンスが深刻な統合失調症を発症。ニューヨークのホテルで錯乱事件を起こしてベルビュー病院に収容され、バンドを永久に離脱した(後にスペンスはアシッド・フォークの金字塔的ソロ作『Oar』を発表)。
さらに元マネージャーのマシュー・カッツとの間で、バンド名や原盤権、印税をめぐる過酷な法廷闘争が泥沼化し、メンバーは数十年にわたって活動の制限と困窮を強いられた。それでも残されたメンバーは『Moby Grape '69』や『Truly Fine Citizen』、1971年の再結成作『20 Granite Creek』など高品質な作品を遺した。
数々の悲劇や商業的混乱に見舞われながらも、彼らの残した音楽的遺産は圧倒的である。レッド・ツェッペリンのロバート・プラントやニール・ヤング、R.E.M.、ザ・ドゥービー・ブラザーズら数多くのミュージシャンが公然と敬意を表明し、アメリカン・ギター・ロックやカントリー・ロック、インディー・ロックの先駆的青写真として現在も不朽の評価を誇っている。