Vinyl Record Reviews
Sixto Rodriguez(シクスト・ロドリゲス、1942年7月10日 - 2023年8月8日)は、アメリカ・ミシガン州デトロイト出身のシンガー・ソングライター/ギタリスト。自国アメリカでは完全に無名のまま引退したにもかかわらず、地球の裏側の南アフリカで国民的スーパースターとなっていたという、音楽史上屈指の奇跡的な物語で知られる。
メキシコ系移民の家庭に生まれ、デトロイトの酒場などで歌っていたところを見出され、1970年に名プロデューサーのデニス・コフィーらが手掛けたデビュー・アルバム『Cold Fact』、翌1971年に『Coming from Reality』をSussexレーベルからリリースした。
労働者階級の視点や鋭い社会風刺を込めた詩的な歌詞と、哀愁に満ちたアシッド・フォーク/サイケデリック・ロックのサウンドは高い完成度を誇り、「Sugar Man」や「I Wonder」などの名曲を生み出したが、米本国での商業的セールスは惨敗。ロドリゲスは早々に音楽業界を去り、デトロイトで解体作業員や大工仕事などの肉体労働に従事しながら質素な生活を送っていた。
しかし、本人が一切知らぬ間にレコードがアパルトヘイト体制下の南アフリカへと渡り、厳しい言論統制と検閲に苦しむ若者たちの間で「反体制のバイブル」として熱狂的な支持を獲得。エルヴィス・プレスリーをも超える国民的カリスマとなった。
情報が遮断されていた南アフリカでは「ステージ上で拳銃自殺した」「焼身自殺した」という噂が定説化していたが、1990年代末に現地の熱心なファンが調査を行い、デトロイトで健在であることを突き止めた。
1998年、南アフリカ・ツアーが実現し、数万人規模のアリーナを満員にする大熱狂で迎えられた。この驚くべき顛末を追った2012年のドキュメンタリー映画『Searching for Sugar Man(邦題:シュガーマン 奇跡に愛された男)』は米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞し、世界中でその楽曲の素晴らしさが正当に再評価された。