Big Brother & The Holding Company - Cheap Thrills (1968)
Big Brother & The Holding Company / Cheap Thrills(1968, Columbia KCS 9700)
Big Brother & The Holding Company の Cheap Thrills は、1968年のアメリカ西海岸ロックを語るうえで外せない一枚。サンフランシスコで結成されたブルース・ロック/サイケデリック・ロック・バンドが、ジャニス・ジョプリンを前面に押し出して作り上げた代表作で、バンド名義の作品でありながら、実際にはジャニスの存在感が全体を強く支えている。Columbia からのUSオリジナル盤はゲートフォールド仕様、赤い両面 “360 Sound” ステレオ・ラベルで登場した。
作品の位置づけ
このアルバムは、ジャニス・ジョプリンが Big Brother & The Holding Company に在籍した最後のアルバムでもある。のちに彼女はソロ活動へ移るため、ここはバンド時代の集大成としても見られている。前作までの粗さやライヴ感を残しつつ、曲作りや録音の見せ方を整理した作品で、バンドの活動史の中では最も広く知られたタイトルになった。
実際の内容は、完全なライヴ盤というより、スタジオ録音を土台にした作り。プロデューサーのジョン・サイモンが、観客の歓声や会場の空気感を加えて、ライヴ・アルバムのように聴こえる仕立てにしている。結果として、最初から最後まで会場で鳴っているような流れがあり、当時のリスナーがライヴ盤だと受け取ったのも自然な流れだった。
収録曲とよく知られた場面
代表曲としてまず挙がるのは Piece of My Heart。もともと別の歌手によって録音されていた曲を、ジャニスの歌唱で一気にバンドの看板曲へ押し上げたものだ。ここでの歌い方は、細かな装飾よりも、声の圧とフレーズの押し出しで曲を引っ張るタイプ。耳に残るフックが強く、シングルとしてもアルバムの顔としても機能している。
ほかにも、ブルースを土台にした曲、長めの展開を持つ曲、語り口の濃い曲が並び、サイケデリック期のサンフランシスコらしいラフさと、ラジオ向けの明快さが同居している。Ball and Chain はライヴ録音で、アルバムの中でも別の温度を持つ1曲。スタジオ録音主体の中に、実際のステージでの緊張感が差し込まれる構成になっている。
ジャケットとエピソード
この盤でよく話題になるのが、ロバート・クラムのイラストを使ったジャケット。もともとはバンド側が全裸でベッドに横たわる写真案を出していたが、Columbia が却下し、最終的にクラムの絵が採用された。クラムはアンダーグラウンド・コミックの作家として知られ、ジャニス本人も彼の絵を気に入って表紙に据えるよう希望したとされる。ロック・アルバムのジャケットとしてはかなり強い印象を残す一枚で、音だけでなく見た目でも時代の空気を刻んでいる。
収録曲のクレジットにも小さな差異がある。たとえば Summertime は表記の揺れがあり、Ball and Chain では作曲者表記がジャケットとラベルで異なる。こうした細部は、当時のレコード制作や印刷の事情も含めて、オリジナル盤の味わいとして見られている。
USオリジナル盤の仕様
今回の Columbia KCS 9700 は、1968年のUS盤。テレ・ホート工場プレスのバリエーションで、ランアウト部に “T” が刻まれているのが識別点になっている。ゲートフォールド・ジャケット、赤い “360 Sound” ステレオ・ラベル、白文字レイアウトという組み合わせで、60年代後半のColumbiaらしい装い。のちの再発盤ではラベルやプレスの違いが出るが、この時期のオリジナル仕様は、見た目だけでも時代性がはっきりしている。
同時代の文脈
Cheap Thrills が出た1968年は、アメリカのロックがブルース、フォーク、サイケデリックを行き来しながら拡張していた時期。サンフランシスコ周辺では Jefferson Airplane や Grateful Dead なども活動していたが、Big Brother & The Holding Company はその中でも、より荒さの残るバンドとして記憶されている。そこにジャニスの歌が入ることで、単なるガレージ的な勢いでは終わらず、声そのものが主役になる構図が生まれた。
このアルバムは Billboard のアルバム・チャートで8週1位を記録し、1968年の年間売上でも上位に入った。バンドにとって最大の成功作であり、ジャニスにとってもソロへ向かう直前の重要作。ブルース・ロックとサイケデリック・ロックの接点を、60年代末の空気の中でそのまま封じ込めた記録として残っている。
トラックリスト
- A1 Combination Of The Two 5:45
- A2 I Need A Man To Love 4:56
- A3 Summertime 3:59
- A4 Piece Of My Heart 4:12
- B1 Turtle Blues 4:21
- B2 Oh, Sweet Mary 4:16
- B3 Ball And Chain 9:30