The Neville Brothers - Yellow Moon (1989)
The Neville Brothers『Yellow Moon』
1989年の『Yellow Moon』は、ニューオーリンズのネヴィル・ブラザーズがダニエル・ラノワと組んだアルバム。前作『Uptown』で試した洗練されたポップR&B路線のあと、バンドは新しい録音環境と制作体制に踏み込んだ。A&MからのUS盤で、SP 5240というカタログ番号で出ている。
制作背景・エピソード
制作の中心にいたのは、当時すでにU2『The Joshua Tree』やピーター・ガブリエル『So』で知られていたダニエル・ラノワ。ニューオーリンズに移住していたラノワは、ネヴィル・ブラザーズのライヴに強く惹かれ、プロデュースを熱望したという。メンバー側も彼を「シャーマン」と呼び、信頼を寄せた。
録音は、商業スタジオではなく、ニューオーリンズのセント・チャールズ・アベニューにある空き家の邸宅を借りて行われた。機材を持ち込んだ移動スタジオ「Studio On The Move」を使い、エンジニアのマルコム・バーンらと作業した。天井からスパニッシュ・モスを吊るし、ボブキャットの剥製やゴムのヘビを置くなど、空間づくりにも独特の工夫が施されている。夜の虫の声や風の音も録音に取り込まれた。
ラノワは、メンバーの打楽器演奏をもとに、部屋中にプーリーとマイクスタンドを渡した1/2インチテープでループを作り、16小節の催眠的なリズム基盤を構築した。アルバムのブックレット情報では、録音は「Studio On The Move」、マスタリングはカリフォルニア州バークレーのFantasy Studios。ランアウトには「MASTERDISK」の刻印があり、EMWのエッチングとラベルのB印から、EMWプレス盤であることも示されている。
時代の文脈
この作品は、ニューオーリンズのセカンドラインやマルディグラ・インディアンの伝統、ファンク/R&Bのリズムと、ラノワの持つ奥行きのある音響感覚が重なる位置にある。同時期には、同じニューオーリンズでラノワがボブ・ディラン『Oh Mercy』や自身のソロ作『Acadie』にも関わっており、『Yellow Moon』はその流れの起点となった。
収録曲では、アフリカ系アメリカ人や先住民族の歴史、人種差別、公民権運動を扱う曲が並ぶ。「Sister Rosa」は公民権運動の母ローザ・パークスへの敬意を込めた曲で、「My Blood」は血筋やつながりを歌うシリルの楽曲。さらに、ボブ・ディラン「With God On Our Side」と「The Ballad Of Hollis Brown」のカバーも収められている。
アーロン・ネヴィルの無二のファルセット、チャールズ・ネヴィルの情感豊かなサックス、パーカッションの絡みが、深いリバーブとエコーの中で鳴り響く。サム・クック「A Change Is Gonna Come」の熱唱も、このアルバムの重要なハイライトとなっている。
後世への影響
本作のインストゥルメンタル「Healing Chant」は、第32回グラミー賞で最優秀ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンス賞を受賞した。アルバム自体も、ネヴィル・ブラザーズの代表作として扱われ、米Billboard 200では66位、ゴールド認定を記録している。ローリング・ストーン誌などの年間ベストでも高く評価された。
また、このアルバムでのディラン曲のカバーは、ディラン本人に大きな衝撃を与えた。『Yellow Moon』のアプローチが、ディランにラノワへ『Oh Mercy』のプロデュースを任せ、ニューオーリンズで録音する決断を促す契機となった。
トラックリスト
- A1 My Blood 4:11
- A2 Yellow Moon 4:04
- A3 Fire And Brimstone 3:57
- A4 A Change Is Gonna Come 3:43
- A5 Sister Rosa 3:29
- A6 With God On Our Side 6:37
- B1 Wake Up 3:21
- B2 VooDoo 4:26
- B3 The Ballad Of Hollis Brown 5:45
- B4 Will The Circle Be Unbroken 5:16
- B5 Healing Chant 4:34
- B6 Wild Injuns 3:17