Gal Costa - Gal (1969)
Gal Costa『Gal』(1969)について
ブラジルの歌手ガル・コスタが1969年にPhilipsから発表したソロ2作目のアルバム。セルフタイトルの前作『Gal Costa』から間を置かずに出た作品で、区別のために収録1曲目にちなみ「Cinema Olympia」と呼ばれることもある。トロピカリアの流れを受けつつ、より鋭く、より荒い手触りを前面に出した一枚で、ガルのキャリアの中でも特に実験性の強い作品として語られている。
1969年という時代の空気
制作背景には、ブラジルの軍事政権下でトロピカリア周辺の動きが強く圧迫されていた状況がある。カエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジルがロンドンへ向かったあと、ガルは現地に残り、ジャルズ・マカレーらと組んでこのアルバムをまとめた。プロデュースはマノエル・バレンベイン、アレンジはロジェリオ・ドゥプラ。録音にはジャルズ・マカレー、ラニー・ゴルジンらが参加し、カエターノがライナーノーツを書いている。
同時代のブラジル音楽の中でも、この作品はボサノヴァ的な整い方より、ロック、ファンク、前衛性の入り方が目立つ。トロピカリアの文脈でいえば、カエターノやジルの作品と並べて語られることが多い一方、ガル自身の声の置き方がかなり前に出るため、単なる“周辺作”では済まない内容になっている。
収録曲と聴きどころ
収録曲はカエターノ、ジルベルト・ジル、ジョルジ・ベン、ロベルト&エラスモ・カルロス、ジャルズ・マカレーとカピナンらの作品で構成される。「País Tropical」は有名曲として知られるが、この盤ではロック寄りの演奏に置き換えられ、カエターノとジルのバック・ヴォーカルも入る。「Meu Nome É Gal」はロベルト&エラスモ・カルロスがガルのために書いた曲で、のちに彼女の代表的なテーマ曲のような位置を得た。
全体を通して、歪んだエレキギター、強い打楽器、張り詰めた歌唱が印象に残る。ガルの声は柔らかく整える方向ではなく、押し出しの強さを優先していて、叫ぶようなフレーズも多い。ドゥプラのアレンジにはアラブ風の楽器を取り入れた箇所もあり、サイケデリック・ロックやアヴァンギャルド寄りの感触を作っている。曲ごとの輪郭がはっきりしているので、単色の“実験盤”ではなく、ポップソングを素材にしながら音の圧を上げていく作りに見える。
作品の位置づけ
ガル・コスタにとっては、ソロ歌手としての輪郭を強く印象づけた時期の記録。前作で見えた個性をさらに先鋭化し、トロピカリア以後のブラジル音楽がどこへ進んだかを示す一枚として扱われている。後年の評価も高く、AllMusicでは満点評価が付けられ、Pitchforkでもトロピカリア期の中でも特に重く、攻めた作品として取り上げられている。
再発盤も流通しており、ブラジルのサイケデリック・ロックを語るときに外せないタイトルとして知られる。オリジナルは1969年のブラジル盤Philips、品番はR 765.098 L。盤のクレジットには℗ 1969、インサート付きとある。タイトル名のシンプルさに反して、内容はかなり切迫感のあるもの。ガルの歌声、当時の政治状況、トロピカリアの残響がそのまま刻まれた作品として、今も強い存在感を持っている。
トラックリスト
- A1 Cinema Olympia
- A2 Tuareg
- A3 Cultura E Civilização
- A4 País Tropical
- A5 Meu Nome É Gal
- B1 Com Mêdo, Com Pedro
- B2 The Empty Boat
- B3 Objeto Sim, Objeto Não
- B4 Pulsars E Quasars