Gilberto Gil - Refavela (1977)
Gilberto Gil『Refavela』(1977)レビュー
ブラジル音楽を語るうえで、Gilberto Gilは外せない存在だ。歌手、ギタリスト、ソングライターとして活動しながら、音楽の更新と社会へのまなざしを両立させてきた人物である。1977年にブラジルのPhilipsから発表された『Refavela』は、その歩みの中でも重要な一枚として知られている。タイトル通り、都市とアフロ・ブラジル的な感覚、そして当時のブラック・ミュージックへの接続が前面に出た作品で、MPBの枠の中に多層的なリズム感を持ち込んだアルバムという印象が強い。
Gilberto Gilは1942年、ブラジル・バイーア州サルヴァドール生まれ。バイーアの文化的背景を背負いながら、60年代後半からトロピカリアの文脈でも存在感を示してきた。『Refavela』はそうしたキャリアの延長線上にありつつ、1970年代半ばのブラジル音楽が広げた都市的で国際的な視野を、かなり明確に反映した作品として聴こえる。柔らかい歌声とギターを軸にしながらも、リズムの組み方やコーラスの置き方に、単なるシンガーソングライター作品とは違う広がりがある。
作品全体の輪郭
『Refavela』は、1977年当時のGilberto Gilの表現がかなり整理されたかたちで入ったアルバムだ。派手さよりも、曲ごとにリズムの重心や言葉の置き方を変えながら、全体でひとつの流れを作っていくタイプの作品である。MPBという枠の中でも、サンバ、アフロ・ブラジルの感触、ファンクやソウル以後のグルーヴが自然に接続していて、そこにGilの歌がすっと乗る。音の数を詰め込みすぎず、各パートの役割が見えやすいのもこの時代のブラジル盤らしいところだ。
同時代のブラジル音楽でいえば、Caetano VelosoやJorge Benの作品群と並べて語られることが多い領域にある。Caetanoが言葉と構成の緊張感を強める一方で、Gilはリズムの流れを保ちながら、歌の中に都市の空気や身体感覚を入れていく。その違いが『Refavela』ではわかりやすい。Jorge Ben的な推進力を思わせる場面もあるが、Gilの場合はそこにMPBらしい輪郭の明晰さが残る、という聴こえ方になる。
注目曲「Refavela」
タイトル曲「Refavela」は、このアルバムの方向性を最もわかりやすく示す一曲だ。リズムの立ち上がりが早く、ギターの刻みと歌のフレーズが噛み合うことで、曲全体に前へ進む感触が生まれている。ここではメロディの美しさだけでなく、反復の中で少しずつ熱量を上げていく構成が目立つ。Gilの歌い回しは押しつけがましくなく、むしろ軽く乗せるように進むのに、結果として曲の芯はかなり強い。
この曲では、ブラジル音楽のローカルな手触りと、当時のブラック・ミュージックから得たであろう感覚が同居しているように聴こえる。打楽器の感覚やコーラスの置き方に、その混ざり方が出ている。単に「踊れる曲」というより、都市の生活感や共同体の空気を音にしたようなまとまりがあるのが特徴だろう。アルバムの表題曲として、作品全体の核になっている。
注目曲「Babá Alapalá」
「Babá Alapalá」は、『Refavela』の中でも特にアフロ・ブラジル的な意識が前に出る楽曲として印象に残る。リズムの組み方が重くなりすぎず、それでいて祝祭性だけに寄らない。言葉の反復やフレーズの積み重ねが、儀礼性のある空気を作っていて、Gilの作品の中でもかなり特徴的な位置にある。歌の表情も、日常的なポップソングというより、もう少し儀式に近い温度を持つ。
この曲を聴くと、Gilberto Gilが単にモダンなブラジル音楽の担い手だっただけでなく、バイーアの文化的背景をどう作品へ落とし込むかを継続して考えていたことが見えてくる。音数を増やさず、反復の力で引っ張る作りは、アルバムの中でも際立っている。派手な展開がなくても曲として成立している点に、この時期のGilの作曲の強さがある。
1977年という時代の中で
1977年のブラジル音楽は、MPBの洗練と、ファンクやソウル以後のリズム感、さらにアフロ・ブラジルの再評価が交差していた時期でもある。『Refavela』はその交点にある作品として聴くと、輪郭がつかみやすい。Gilberto Gilは政治的な発言でも知られるが、このアルバムではメッセージを前面に押し出すというより、音楽の構造そのものに文化的な視点を埋め込んでいるように感じられる。そこがこの作品の面白さだ。
ブラジル盤としての初出年は1977年。レーベルはPhilips、カタログ番号は6349 329。70年代のPhilipsらしい整理された装丁の中に、Gilの多面的な音楽性がきちんと収まっている。初出当時の空気をそのまま伝える一枚として、アルバム単位でのまとまりも強い。曲ごとに役割がはっきりしていて、タイトル曲を中心に流れを追うと、作品全体の設計が見えやすい。
まとめ
『Refavela』は、Gilberto Gilのキャリアの中でも、リズム、文化背景、都市感覚がうまく噛み合ったアルバムだ。MPBの枠に収まりながら、その外側にあるブラック・ミュージックやアフロ・ブラジルの感触を自然に取り込んでいる点が、この作品の核だろう。歌の温度は落ち着いていても、音の中には強い推進力がある。1977年のブラジルの空気を、Gilらしい視点で切り取った作品として、静かに存在感を放っている。
トラックリスト
- A1 Refavela 3:53
- A2 Ilé Ayê 3:05
- A3 Aqui E Agora 4:10
- A4 Norte Da Saudade 4:19
- A5 Babá Alapalá 3:36
- B1 Sandra 4:47
- B2 Samba Do Avião 3:33
- B3 Era Nova 3:59
- B4 Balafon 3:56
- B5 Patuscada De Gandhi 2:32