Baden Powell - Tristeza On Guitar (1966)
バーデン・パウエル『Tristeza On Guitar』について
バーデン・パウエルは、ブラジル音楽の中でもギターの表現力を強く押し広げた人物として知られている。作曲家でもあり、演奏者としても独自の位置を築いた人で、この『Tristeza On Guitar』はその魅力がまとまっている作品だ。オリジナルは1966年の録音で、UK盤としては1968年にリリースされている。ジャズやラテンの文脈で語られることも多いが、中心にあるのはMPB以前から続くブラジル音楽の感触と、ギター1本で輪郭を作る強い構成力である。
録音とリリースの背景
このアルバムは、1966年6月1日にリオデジャネイロのStudio Riosom S/A、翌6月2日にStudio Atonal Ltda.で録音されている。リリース時のUK盤はPolydorから出ており、見開きジャケット仕様。ラベル表記は「Made in Germany」とされていて、UK向けの流通盤でありながら実際の製造はドイツ側にあることが分かる。盤のカタログ番号はPolydor 583 708。
バーデン・パウエルにとって本作は、ヨアヒム=エルンスト・ベーレントとの長い協働の出発点としても位置づけられている。録音の時点で、すでに彼のギターは単なる伴奏楽器ではなく、旋律、リズム、和声を同時に運ぶ装置として機能している。ソロの間合いと、曲ごとに変わる小編成の使い分けが、作品全体の密度を支えている。
作品の中身
タイトルの「Tristeza」は悲しみを示す語だが、アルバム全体の印象は、そこに完全には収まらない。曲によっては踊りの動きが前に出て、別の曲では祈りに近いまとまりがある。ギターの音は細かく刻まれつつ、音数を増やしすぎない。結果として、拍の置き方や余白の取り方がはっきり聴こえる。録音年代を考えると、ブラジル音楽の国際的な広がりを示す一枚でもある。
収録曲の中では、「Canto de Xangô」「Canto de Ossanha」が重要だ。どちらもバーデン・パウエルの代表的な作風を示す曲として扱われることが多く、同時期の『Os Afro Sambas』とも強く響き合う。宗教性、民俗性、サンバのリズム感が、ジャズ的な聴かれ方ともつながっていく流れがここにはある。自作曲の比重も高く、作曲家としての輪郭が前に出る内容だ。
同時代の文脈
1960年代半ばのブラジルでは、ボサノヴァ以後の洗練された都市音楽と、より強いアフロ・ブラジル的要素を持つ表現が並走していた。バーデン・パウエルはその両方の接点に立つ存在で、ジョビンやジョアン・ジルベルトの流れとは別に、ギターの打楽器的な側面をより前に押し出している。ギター1本でも成立する構造を持ちながら、合奏に入ったときの推進力も失っていない点が特徴的だ。
彼の演奏は、後のブラジル系ギタリストや、ジャズ側からブラジル音楽に接近した演奏家たちにも参照されてきた。特に、リズムの刻み方と和声の運びの両立という点で、この時期の作品は重要な基準になっている。
UK盤としての意味
1968年のUK盤は、1966年録音の内容をヨーロッパ市場へ届けた再登場盤として見ることができる。オリジナルの制作時点から少し時間を置いての発売だが、そのぶん当時の国際的なブラジル音楽ブームの中で受け止められた面もある。ドイツ市場ではチャート入りの記録もあり、少なくとも欧州では一定の広がりを持った作品だったことがうかがえる。
再発盤として見ると、音楽そのものは1966年の録音に基づくため、作品の核は変わらない。とはいえ、UK盤として流通したことで、ブラジル国内の文脈だけでなく、ジャズやラテンの聴取環境に置かれたのがこの盤の特徴だろう。レーベルのPolydorは国際的な流通力を持つ会社であり、このアルバムもそのネットワークに乗って広がっていった。
まとめ
『Tristeza On Guitar』は、バーデン・パウエルのギターが持つリズム、旋律、和声のバランスをよく示す一枚だ。1966年の録音という時点で、彼の表現はすでに完成度が高く、作曲家としての曲の強さもはっきりしている。悲しみを示すタイトルに対して、音の運びはむしろ前へ進む力を持ち、ブラジル音楽の中でも独特の位置を占める作品としてまとまっている。
トラックリスト
- A1 Tristeza 3:18
- A2 Canto De Xango 4:43
- A3 Round About Midnight 5:33
- A4 Sarava 3:35
- A5 Canto De Ossanha 3:38
- B1 Manha De Carneval 3:10
- B2 Invencao Em 7 1/2 5:12
- B3 Das Rosas 5:28
- B4 Som Do Carnaval 3:30
- B5 O Astronauta 2:25