Phew - Phew (1981)
Phew / Phew(1981)
Phewの1stソロアルバム『Phew』は、1981年に日本でリリースされた作品。Aunt Sallyでの活動を経て、坂本龍一プロデュースのシングルを挟み、ソロとしての輪郭をはっきり示した初期作にあたる。日本のポストパンクと、当時のヨーロッパ実験音楽の接点に立つような内容で、ジャンル表記どおり電子音、ロック、前衛性が同じ盤面に収まっている。
制作の中心にいるのは、コニー・プランクのスタジオ、そしてCanのホルガー・シューカイ、ヤキ・リーベツァイトという顔ぶれ。日本人ヴォーカリストのソロ作に、クラウトロックの重要人物たちが参加した組み合わせは、当時としてかなり特異だ。大阪出身のPhewの声が、そのまま日本のニューウェーブ文脈に閉じず、ドイツの実験音楽の空気とぶつかっている点がこの作品の核になっている。
作品の輪郭
アルバム全体を通して、曲はきっちり整え込まれるというより、断片がぶつかり合う感触が強い。リズムは前へ突き進むというより、一定の距離感を保ちながら反復し、そこに電子処理やギターのざらつきが重なる。ポストパンクの硬さと、インダストリアル的な冷たさ、アートロックの構成感が同居している印象だ。
聴感上いちばん目立つのは、Phewのヴォーカル。メロディを強く押し出すというより、言葉の置き方や息の混ぜ方で曲の重心を作っていく。ニコを引き合いに出されることがあるのも納得できるが、単に似ているというより、声を「歌うための線」だけに使っていないところに個性がある。フレーズの切れ目、語尾の落とし方、無機質さと体温の同居が、このアルバムの印象を決めている。
同時代の文脈
1981年という時期を考えると、日本のロックはポストパンク以降の新しい表現を探していた頃で、Phewのこの作品はその中でもかなり先鋭的な位置にある。Aunt Sallyの流れを引きつつ、より外側へ開いた作りで、国内のニューウェーブだけでなく、Can周辺のクラウトロックや、欧州の前衛ロックとも地続きに聴こえる。
同時代の作品と比べても、ここでは「日本の女性ヴォーカルのソロ」という枠に収まりにくい。坂本龍一とのシングルで見せた感覚をさらに広げ、ソロ作としての独立性を強く打ち出している。後年のPhewが、即興、電子音、コラボレーションを横断する活動へ進んでいくことを考えると、この1作は出発点としてかなり重要な位置づけにある。
聴きどころ
派手なヒット曲で引っ張るタイプのアルバムではないが、曲ごとの緊張感は高い。反復するビートの上で声が少しずつずれていく場面、ノイズや電子音が空間を削る場面、低いテンションのまま引きずるように進む場面など、各曲の役割がはっきりしている。1枚を通して聴くと、歌ものというより、声を中心にした実験的な組曲のようなまとまりがある。
再発や再評価が進んでいるのも、この作品が単なる初期ソロ作ではなく、日本とヨーロッパの実験音楽をつなぐ記録として読まれているからだろう。オリジナルの1981年盤は、その時点での空気をそのまま封じ込めたような存在感がある。Phewというアーティストの輪郭を知るうえで、最初に置かれるべき1枚として扱われてきたのも自然な流れだ。
『Phew』は、ポストパンク、クラウトロック、電子音楽の要素が、ひとりのヴォーカリストの声を軸に結びついた作品。1981年の日本の音楽シーンの中でも、かなり異質で、今聴いてもその異質さが薄れていない。
トラックリスト
- A1 Closed 3:17
- A2 Signal 4:28
- A3 Doze 5:17
- A4 Dream 3:20
- B1 Mapping 3:45
- B2 Aqua 3:51
- B3 P-Adic 3:33
- B4 Fragment 3:58
- B5 Circuit 1:38